23 / 66
第23話
「誠也くんは真面目だもんな。仕事だって滅多に休まねえだろう」
「ああ、離れて暮らしてても親が悲しむようなことはしたくない」
誠也の実家は埼玉県だ。埼玉県でも群馬に近いところ。そこから通うことも出来たはずだが、1時間以上も電車に乗るのも嫌だった。春陽くんは神奈川県の生まれだと聞いていた。やっぱ海の近くで生まれた子はイケてるんだよな。サザンの歌が浮かんでくる。最近のことだが、東京オリンピックが始まるというテレビで歌っていた。カッコ良かったな。
「そう言えば、花見の約束は守れよ」
春陽くんが誠也にもたれ掛かりながら言う。
「ああ、昨日言ってたな。蘭丸さんたちと行くんだろ」
「うん、桜には思い出があんだよ」
思い出か。彼女と行ったとか、デートで行ったとかそんな話だろう。今、女の子のことは聞きたくない。
「小さい時にさ、近所の公園が花見客だらけだったんだ。そこのさ、駐車場がいっぱいだったんだけど、ブラブラと歩いて通り掛かった時に車の中でやってるカップルを見たんだよ」
「あー、カーセックスってやつか?」
「うん、女が下で男が上に乗って腰を動かしてたんだ、あれ見たときはショックだったな。マジ、獣みたいだったよ。俺はあんなのの仲間入りしたくないと思ったね」
「だから男が好きになったのか?」
誠也は思い切って訊いてみた。
「なんだろうな。分からない」
上手くはぐらかされてしまったが、春陽くんが男女の営みに嫌悪感を抱いていることは分かった。それだけでも良しとしよう。
ともだちにシェアしよう!