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第31話

 電車は都内から埼玉県に入る。運よく座ることが出来たのでブルーの椅子に腰かけた。流れる景色を見ていると住宅街が窓の外に広がっている。誠也は一人っ子だ。お父さんになにかあったらお母さんを東京に呼ぶか誠也が実家に帰るしかないだろう。お母さんを1人暮らしさせるのは男として責任感がないような気がする。もっともお母さんはまだ50代だ。なんで若いお母さんなのに気にするの?と言われそうだが、誠也は他人がなんと言おうと関係ない。50代、面倒を見なくてはいけない歳ではないかもしれないが、お母さんは膠原病という持病を持っている。  特急に乗ったので実家のある駅にはすぐに着いた。ロータリーに停まっているタクシーに病院名を言うと緊張で身体がかたくなる。お正月は実家に帰らなかったので1年以上ここには来てない。まさかお父さんが危なくなるだなんて、脳の動脈瘤が破裂するなんて思ってもいなかった。タクシーは商店街を抜け住宅街を抜け国道から病院の敷地内に入る。病院の中に入るとお母さんに電話をする。 「着いたよ、何処に行けばいい?」 「1階のロビーに来てくれれば私が行くから」  誠也は休日で人気のない静かで広いロビーの長椅子に腰かけた。 「誠也、早かったのね、お父さん、緊急治療室に入ったままなの。医師が言うには予断を許さないんだって」 「そう、お母さん、寝てないんでしょ。後は俺に任せて一回帰って寝た方がいい。何かあったら連絡するよ」 「ええ、眠れないかもしれないけれど、仮眠でも取りたいなって思ってたの。クラクラしちゃって」 「お母さんは持病があるんだから無理しちゃダメだ」  誠也はそう言うとお母さんの肩を抱いた。

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