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第32話

 看護師さんに挨拶をしてお母さんは帰って行った。誠也は1人ロビーで両手を合わせて項垂れた。お父さん助かってくれよ。4時間くらい経ったとき、お母さんがダウンコートを着てやってきた。そういえば朝に会ったときは寒そうな毛糸のカーディナルだけだった。よっぽど急いで来ていたんだろう。 「お父さん、どう?」 「まだ何も言われない。何も変わってないみたいだ」 「そう」 「俺さ、売店で何か買ってくる。お母さん、何か食べた?」 「いいえ。横になってうとうとしただけで直ぐに来たの」  お母さんは憔悴した顔を誠也に向ける。 「それじゃあ身体によくないよ。お弁当を買ってくる、無理してでも食った方がいい」  誠也はそう言うと病院の売店に向かった。助六のお弁当とペットボトルのお茶を2人分買ってロビーに戻る。味なんか感じないが助六寿司を胃に入れていると春陽くんからLINEが来た。 「誠也くん、お早う、昨日は忙しかった?」  誠也は返信を打つ。 「ああ、忙しかった。俺と春陽くんがカフェにいるところ客に見られてたよ」 「マジ、マジ、それで何て言ったんだよ」 「彼氏だってばらした」  誠也はお父さんのことをメッセージしようか迷っていた。 「今日さ、お昼一緒に食わねえか?」 「嬉しいけれど、今、実家なんだ」  春陽くんには本当のことを伝えた方がいいだろう。 「なにかあったのか?」 「ああ、お父さんが倒れたんだ」 「え、倒れたって病気か?悪かった、俺、誠也くんと付き合い始めたばっかだから浮かれてた。空気読めなくて悪かったな」  春陽くんはしょんぼりしたみたいだった。もしお父さんに何かあって実家に帰ることになったらどうなるんだろう。付き合いを続けられるだろうか。

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