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第53話
朝食を簡単に食べて家を出る。今日は自転車だ。平年より気温が高いらしく、朝日が眩しい。電車に揺られて会社へ着くと理沙ちゃんが「酒臭ーい」と言った。
「マジ?」
「うん、ぷんぷん匂う」
「実は昨日飲んじゃったんだ」
「誠也さんはたまに酒臭いよね」
理沙ちゃんはそう言って吹き出して笑った。そして真面目な顔に戻ってこう言った。
「そう、そう、会社のみんなで花見するんだけど、誠也さん、どうする?お父さん具合悪いんでしょ」
「ああ、でも花見はしたいな。上野でやるんだろ?」
「うん、じゃあさ、宴会する場所の席取りして貰えるかな」
「ああ、それくらいはいいよ」
上野公園は席を取っておかないと座る場所がないだろう。会社で一番に若いのは誠也だ。理沙ちゃんも若いが女の子にさせるなんて可哀想だ。臥せっているお父さんには悪いが、元気だったら「行ってこい」と言っただろう。誠也は欠伸を噛み殺して椅子に腰かけた。睡眠不足だ。
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