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3 君しかいない
一体どんな宣伝をしたのだろう。
今日は20人近い。
旧演劇部の部室は相当広いけど、それでも、なかなかの人口密度だ。
澤村くんの命令で、ひとが入る前に、既に俺はソファの上に仰向けに寝かせられていて、吉野くんは俺の上に折り重なるように体をまたいで、軽いキスを繰り返していた。
「うわー、すげー」
今日初めて来たと思しきひとたちが、興味津々に俺たちをのぞき込む。
「はいそこ、その線以上入らないでね」
松田くんが指さしたのは、ソファの周りの床にぐるっと貼られたテープ。
本当に、文字通り見せ物だ。
真顔のまま何度もキスしてくる吉野くんの背中に、おっかなびっくり腕を回して、次の命令を待つ。
こんなこと、早く終わらせてくれ。
「じゃー、底辺ホモ鑑賞会始めまーす」
桜井くんがパンパンと手を叩くと、みんながこちらに注目した。
「吉野。抜け」
澤村くんの、短い一言。場が色めき立つ。
吉野くんは俺の耳元で、小さくささやいた。
「今日も飲むから。我慢しないでイッていいよ」
返事をする間もなく、ベルトを外す。
手早く服をずらして、すぐにくわえこんだ。
「うわ……マジだ」
「倉持、顔隠すんじゃねえよ!」
ヤジが飛んできて、仕方なく顔を晒す。
「いやーん、倉持くんヘンターイ。もう感じてんじゃーん」
顔が真っ赤なのは、自分でも分かる。
吉野くんは昨日と同じように、先端を口でクニクニと刺激しながら、根本をしごいた。
「ぅ……、」
必死で息を殺すけど、変な声が出ちゃいそう。
終わらせるにはイクしかないから、全神経をペニスに集中させる。
「ん……、はあ、はぁっ」
吉野くんは俺の腰が逃げないように体重をかけて押さえていて、昨日よりも積極的に、じゅるっと吸ってみたり、舌でくぼみを刺激した。
「はあ、……ぁ、イッちゃいそ……」
足に力が入り、呼吸が荒くなる。
「ん……、ン、はあ、吉野くん、やっぱり離してっ」
飲むと言ってくれたけど、そんなことしてもらう必要、全然ない。
どのみちみっともないのは一緒なんだから、それなら俺が射精するところでも見て、適当に満足して帰ってもらいたい。
「よしのく、……ぁあ、やだ、イッちゃうから……ダメ、口離して、や、手だけでいいから……っ」
「吉野ー! 飲めー!」
「だめ、や、ぁあっ……んッ、ん、」
身をよじる。すると、桜井くんが楽しそうな声で言った。
「倉持、気持ちいいって言ってー?」
無理だよ、恥ずかしすぎる。でも、逆らったら吉野くんが……。
「き……、気持ちいい、……、きもちい……」
「うええキモい」
「吉野ー! やれー!」
「ぁあっ……吉野くん、ぁ、イク、ごめん、ぁあっ……ッ!んぁあッ……!……っ!」
体を弓なりに反らして、多分めちゃくちゃだらしない顔を大勢に晒して、吉野くんの口の中へ。
吉野くんの、ちょっとむせる声がする。
ごめん、ごめん、ごめんなさい。
ふっと力が抜けると、荒い呼吸と、バクバクした心音を感じた。
大爆笑するギャラリーを見て、涙がじんわりと溜まる。
すると、松田くんが何かを投げた。
床に転がったのは、ローションとコンドーム。
絶対零度の澤村くんの声が響いた。
「こっからは1,500円。ヤらせるから」
絶句する。
少し体を起こして吉野くんを見ると、床をじっと見たまま、口を半開きにしていた。
誰も帰らない。それどころか、一層盛り上がってる。
キモいキモいと言いながら、とんだ悪趣味の集団だ。
「吉野、こいつ相手に勃つ? 無理ならエロ動画貸すけど」
松田くんが、片手に持ったスマホをひらひらと見せる。
吉野くんは何も答えず、自分のズボンと下着をずらした。
当たり前だけど何も反応していなくて、本当に申し訳なくなる。
吉野くんは俺の耳元でささやいた。
「痛かったらごめん。やり方わかんない」
吉野くんはローションを手に取り、俺のお尻のあたりにぬるぬると塗りつけた。
そして、そろりと指を挿れる。
「……っ」
怖い。目をぎゅっとつぶると、吉野くんはお腹の中のあちこちを探った。
「ぅあ、」
自分のワイシャツの裾を握ったら、吉野くんがその手を捕まえて、繋いでくれた。
しばらくグチュグチュとかき回されていたら、ふいに、体がビクッと跳ねた。
「ぁあっ」
「おー! 吉野、探り当てたなこりゃ!」
「そこ攻めろ攻めろー」
「ああんっ、吉野く、……ぁ、それやだっ、ぁあっ」
声が裏返る。
室内は「やれ」の大合唱で、吉野くんは、3本の指でそこばかりを触ってきた。
「や、やめて、……っああ、ん、んぁっ、……あ」
「ほら、気持ちいい時はなんつうんだっけー?」
桜井くんの意地悪な声。我慢できず涙がこぼれる。
「……きもちい、ぁあ、よしのくんっ、だめ、きもちいい、……ん」
吉野くんは指を引き抜き、自分のものをしごき始めた。
眉間にしわを寄せ、ぎゅっと目をつぶって。
しばらくして、ビニールを破く音が聞こえた。
いよいよ挿れられるんだ。もうこれで、人として色々終わるのかもしれない。
吉野くんが、耳元で言った。
「あんたのせいじゃない」
固いものが入ってきて、体がミシミシと言う感じ。
「…………っ」
苦しくて息もできない。
「線のギリギリだったら近寄ってもいいよ」
松田くんが告げると、結合部の周りにひとが集まった。
「気持ち悪っ。マジで入ってる」
「ケツの穴だぜ? 信じらんねー」
「うんこ漏らせー」
誰かが言って、皆が大爆笑する。
「ん……、んん……」
ぎゅうぎゅうと入ってきて、苦しい。
うっすら目を開けると、吉野くんも辛そうな顔をしていた。
多分これは、彼がイかないと終わらない。
「はぁ、……あ、吉野くん、好きに動いて……イッて」
ひとがたくさん近くにいるからか、吉野くんはしゃべれなくなったらしい。
こくりとうなずいたと思ったら、腰を両手でがっしり支えて、中をガンガンと突き上げてきた。
「ぁあッ、あん、んっ……あッ、はあ、ん……っ、あぁん」
苦しい。けど、なんか。
こんな風に、お尻の穴にペニスを出し挿れされるところを間近で凝視されて、猛烈に恥ずかしいのに。
「んぁあっ、あ、吉野くん、気持ちいい……ッ」
「倉持くんケツ掘られて感じてんのキモーイ」
「ガチの変態じゃん」
「ぁあ、……っ、ん、はぁ、っあ……、よしのくん、イける? っ、どうしたらいい?」
吉野くんは何も答えず、ひたすら激しく腰を振る。
「ひあ、ぁあッ……ん、ぁ、またイッちゃ……」
「イけ倉持!」
「ぁあっ、むり、我慢できな……、っああッ、よしのくん……!イクッ、ああああっ……!……っ!」
お腹の上に、自分の精液が飛び散る。
吉野くんはさらにスピードをつけたと思ったら、ガンッとひと突きして、息を詰めて果てた。
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