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6 飼われる

 最初は、いじめられっこ同士に無理矢理嫌なことをさせる、言ってしまえば闘鶏(とうけい)みたいなものだったと思う。  だけどいまは、普段からくっついてる俺たちは付き合ってるものとして認識されているし、要するに、他人のカップルのセックスをのぞき見するストリップショーのようなものになっている……と、自己分析した。  前回のはなんと、桜井くんが客全員を監視し何回イッたかを記録していて、入場料2,000円に加えて射精1回につき500円。  30人以上来ていたと思うし、結局1時間くらいしていたので、相当儲かったのだと思う。  そして、誰かが先生に密告した。  ただし、密告した次の日にたばこ部屋を使っていたのは1年生の不良グループで、見回りに来た先生に見つかって、その場にいた全員と、無理やりさせられていたひとたちまで停学になったらしい。  正直、身震いした。  学校からしてみたら、いくら掃き溜め校とはいえ、こんなスキャンダルを放っておいたら問題になるし、被害者ごと口封じしてしまうのは……まあ、このブラックな学校だったらあり得るかなと思う。  先生たちもやる気がないし、面倒事は全部隠蔽(いんぺい)。  ここへ来た時点で、俺みたいな陰キャは不遇な目に遭う運命だったんだ。  あとはもう、巻き込まれないことを祈るばかり。  ちなみに、密告したひとはすぐに特定されて、澤村くんが半殺しにしたと風の噂で聞いた。  ホームルームが終わり、帰り支度をしていたら、知らないひとたちが6人、つかつかとやってきた。  うわばきは赤いライン。3年生だ。 「おい、お前らだろ。澤村んとこで使われてんの」 「あ……えっと……」  答えていいのか分からなくて困っていたら、いきなりビンタされた。 ――バンッ  椅子ごとぶっ飛んで、しりもちをつく。 「痛……」  吉野くんが駆け寄ってきて、心配そうに俺のことをのぞき込んだ。  どうしよう、吉野くんに話しかけられて、何もしゃべらなかったら、無視してるとか生意気とか思われてしまうかもしれない。  こんなことを思う日なんて絶対来ないと思っていたけど、思わず願った。  澤村くん、助けて。  でも非情なことに、3人とも5限からサボっていて、教室に居ない。  当然、クラスの他のひとたちは見て見ぬフリだ。  おそるおそる6人を見上げると、1番大きいひとが、ニヤッと笑った。 「ちょっと面貸せよ」  囲まれて、教室の外へ連れ出される。  そして、体育倉庫に無理矢理入れられた。 「さて」  俺たちは、マットの上に並んで正座させられていて、ニヤニヤした6人は、俺たちを取り囲んだ。 「吉野くん? と、倉持くんだっけ? なるほどねー、ふたりとも細くて白くって、女みてえだもんなあ。こりゃ確かに儲かるわ」  怖くて、うつむく。  吉野くんがどんな表情か見たかったけど、それすら許されない感じの空気。  ただただ、自分のひざを見つめる。 「オレたち優しいから、お前らに選ばせてやるよ。いまからここでふたりでヤって動画に撮られんのと、ふたりバラバラにホモオヤジの相手すんのと、どっちがいーい?」  あまりに無茶な話。  おじさんの相手なんて、1回で終わるわけない。無理矢理働かされて、搾取されるのがオチだ。  でも、吉野くんとここでしたら、スマホ6台で撮られて、あっという間に拡散。  最初に澤村くんに目をつけられた時は人生が終わったと思ったけど、あんなのは生ぬるかった。  今度こそ、どちらに転んでも、ほんとに人生終了だ。 「さ、どうしますか?」  じりじりと迫られる。  吉野くんの顔をちらっと見たけど、無表情で、何も読み取れなかった。 「あ、あの……撮らないでください」 「はーん、それでいいんだな?」 「はい」 「じゃ、オッサンたちにハメ撮りされてね。オレたちがやるわけじゃないから、自己責任でしょ?」 「えっ……?」  ニヤニヤしながら見せてきたのは、ゲイの出会い系サイト。  プロフィール作成画面で、写真にはいつの間に撮られたのか、吉野くんの横顔が表示されていた。 「吉野、身長何センチ?」  話せない吉野くんは、無表情で見上げている。 「おい、黙ってんじゃねーよ」 「170センチですっ」  蹴られそうなところを、割り込んで叫ぶ。 「お前らヤるときどっちが突っ込んでんの?」 「……よ、吉野くんです」  ゲラゲラ笑われる。恥ずかしくて泣きたくて、真っ赤になってうつむいた。  目の前のひとは、笑いながらもすいすいとスマホに入力していて、本当にこのままだと、登録されてしまう。 「んー、でもこいつのこの顔で突っ込む方は需要なくね? ヤられといてもらいましょ。3万くらいが手頃かねえ」 「未成年だしもうちょっと取れるんじゃね?」 「じゃ、5万。ハードSM調教希望とかにしとく」 「やば、ウケる」  と、その時。後ろのドアがゴンゴンゴンと叩かれた。 「すみません。うちの見ませんでした?」  扉の向こうからする声は、松田くんだ。 「うちの商品が盗難に遭ってるんですけど」

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