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 ドアが開くと、松田くんひとりだった。 「ああ、いたいた。何やってるの。他の奴らについて行くなって言ったでしょ」  3年生たちを、まるでそこにいないかのように無視して、こちらに一直線に向かってくる。 「おいてめえ、澤村んとこの」  ちらりとも見ずに、俺たちの腕を引っ張る。  立ち上がった瞬間、松田くんめがけて3人が飛びついた。  俺たちは、バラバラに羽交(はが)()めにされる。 「うっざ」  言い捨てた松田くんは、回し蹴りでふたりを顔面からぶっ飛ばして、反動でもうひとりに裏拳を入れた。  悶絶して崩れる3人。 「うわー、(なお)ちゃん。派手にやってんねー」  笑いながら走ってきたのは、桜井くん。  ヘラヘラしたまま俺の方にダッシュで飛び込んできたと思ったら、絶妙に俺の体を避けて、押さえていた人の脇腹に拳をめり込ませた。  よろけたところで、俺の腕を引っ張って離す。 「外出てなー」  そう言いながら、取り押さえられたままの吉野くんに向かってダッシュ。 「させるかぁッ!」  俺を押さえていたひとが追いかけようとしたけど、松田くんがぶん投げた別のひととぶつかって、ふたりとも転んだ。  体育倉庫の外へ出る。  吉野くんは……? 振り返ったら、吉野くんもこちらに向かって走ってきた。  出てきたところで、抱きとめる。 「良かったっ」  とりあえず、ここを離れないと。  前を向いたら、澤村くんが目の前にいた。 「ついてくなつっただろうが」 「すいません」 「約束破りやがって。覚悟しとけよ」  吐き捨てて、体育倉庫の中に入っていく。  一瞬忘れそうになってしまったけど、3人は別に俺たちを助けにきてくれたわけじゃなくて、ただ金づるを盗られたから取り返しに来ただけだ。  約束を破ってしまった。  罰みたいな感じで3人に酷いことをされるのなら、3年生から逃れられたところで、状況は全然変わっていない。 「吉野くん。どうしよう」  倉庫の中では、乱闘する声が聞こえる。  吉野くんはふるふると首を横に振って、俺の手を引いた。  とりあえず、カバンを取りに教室に戻らないと。  でも、そのあとどうする? 「先に帰ったら、勝手に帰るなって怒られるかな。でも、下手に待ってて澤村くんたちがやられちゃっててまた3年生が来たら……」  じんわりと涙が目に溜まってくる。  吉野くんは俺の手を引いたままずんずんと進んで、校舎の陰に来たところで、俺をぎゅーっと抱きしめた。 「情けなくてごめん。あんなときにも声が出なくって、ほんとに、自分が許せない」 「んーん。謝らないで。ふたりとも何もされなかったから、ね」  言いながらも涙目のままなんだから、いい加減自分も情けない。  とりあえず教室に戻って、意味はないかもしれないけれど、教壇の裏のところにこっそり座って待つことにした。  澤村くんたちが片付けていれば、良いか悪いかはともかく連絡が来るだろうし、最終下校時刻になったら帰ってしまえばいい。  あとは、3年生が来ないことを祈るだけ。  口パクで、キスしたいとせがむ。  怖くて怖くてたまらなくて、目の前の彼に優しくしてもらわないと、ダメになってしまいそう。  吉野くんはついばむようなキスを繰り返しながら、解放の時を一緒に待ってくれていた。

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