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6-2
ドアが開くと、松田くんひとりだった。
「ああ、いたいた。何やってるの。他の奴らについて行くなって言ったでしょ」
3年生たちを、まるでそこにいないかのように無視して、こちらに一直線に向かってくる。
「おいてめえ、澤村んとこの」
ちらりとも見ずに、俺たちの腕を引っ張る。
立ち上がった瞬間、松田くんめがけて3人が飛びついた。
俺たちは、バラバラに羽交 い締 めにされる。
「うっざ」
言い捨てた松田くんは、回し蹴りでふたりを顔面からぶっ飛ばして、反動でもうひとりに裏拳を入れた。
悶絶して崩れる3人。
「うわー、尚 ちゃん。派手にやってんねー」
笑いながら走ってきたのは、桜井くん。
ヘラヘラしたまま俺の方にダッシュで飛び込んできたと思ったら、絶妙に俺の体を避けて、押さえていた人の脇腹に拳をめり込ませた。
よろけたところで、俺の腕を引っ張って離す。
「外出てなー」
そう言いながら、取り押さえられたままの吉野くんに向かってダッシュ。
「させるかぁッ!」
俺を押さえていたひとが追いかけようとしたけど、松田くんがぶん投げた別のひととぶつかって、ふたりとも転んだ。
体育倉庫の外へ出る。
吉野くんは……? 振り返ったら、吉野くんもこちらに向かって走ってきた。
出てきたところで、抱きとめる。
「良かったっ」
とりあえず、ここを離れないと。
前を向いたら、澤村くんが目の前にいた。
「ついてくなつっただろうが」
「すいません」
「約束破りやがって。覚悟しとけよ」
吐き捨てて、体育倉庫の中に入っていく。
一瞬忘れそうになってしまったけど、3人は別に俺たちを助けにきてくれたわけじゃなくて、ただ金づるを盗られたから取り返しに来ただけだ。
約束を破ってしまった。
罰みたいな感じで3人に酷いことをされるのなら、3年生から逃れられたところで、状況は全然変わっていない。
「吉野くん。どうしよう」
倉庫の中では、乱闘する声が聞こえる。
吉野くんはふるふると首を横に振って、俺の手を引いた。
とりあえず、カバンを取りに教室に戻らないと。
でも、そのあとどうする?
「先に帰ったら、勝手に帰るなって怒られるかな。でも、下手に待ってて澤村くんたちがやられちゃっててまた3年生が来たら……」
じんわりと涙が目に溜まってくる。
吉野くんは俺の手を引いたままずんずんと進んで、校舎の陰に来たところで、俺をぎゅーっと抱きしめた。
「情けなくてごめん。あんなときにも声が出なくって、ほんとに、自分が許せない」
「んーん。謝らないで。ふたりとも何もされなかったから、ね」
言いながらも涙目のままなんだから、いい加減自分も情けない。
とりあえず教室に戻って、意味はないかもしれないけれど、教壇の裏のところにこっそり座って待つことにした。
澤村くんたちが片付けていれば、良いか悪いかはともかく連絡が来るだろうし、最終下校時刻になったら帰ってしまえばいい。
あとは、3年生が来ないことを祈るだけ。
口パクで、キスしたいとせがむ。
怖くて怖くてたまらなくて、目の前の彼に優しくしてもらわないと、ダメになってしまいそう。
吉野くんはついばむようなキスを繰り返しながら、解放の時を一緒に待ってくれていた。
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