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20分ほど経ったところで、俺のスマホが鳴り出した。
澤村くんからだ。
「も、しもし……」
怯えつつ出ると、いつも通りの低い声で聞いてきた。
「どこに居んだ?」
「教室です」
「1分で降りてこい」
慌てて走って降りると、昇降口のところに3人がいた。
髪や着衣に乱れはあるものの、ほぼ無傷……っぽい。
上級生相手に、しかも6人がかりで来た相手を、3人でのしてしまうなんて。
澤村くんがギリギリまで近寄ってきて、鋭い眼光で見下ろしてきた。
「何やらされた?」
「なんにもされてないです……多分」
「多分ってなんだ」
「えっと、なんかゲイの出会い系に登録されそうになってて……登録ボタン押したりしてなければ」
「ああ、それなら平気。全員のスマホ、初期化して画面バリバリに割ったから」
松田くんが事も無げに言うと、桜井くんが、長髪を結び直しながら「うわー、エグーい」と言って笑った。
澤村くんが、俺の頭を片手で掴んで、力を入れた。
「痛……」
「他の奴らのとこ行ったらリンチって予告したよな?」
「はい……すいません……」
「クソが」
――ドンッ
突き飛ばされて、校舎の壁に当たった。
やっぱり、約束を破ってしまったので、酷い目に遭わされるのは変わらないらしい。
吉野くんが駆け寄ってきて、背中をさすってくれた。
でも、もう逃げられない。
ぎゅっと目をつぶって吉野くんにしがみついたら、頭の上から、はあっというため息が聞こえた。
そして、澤村くんはめんどくさそうに言う。
「金づる、飼われろ」
「え……?」
「放し飼いだと管理しにくいんだよ。これからも底辺ホモとして誰かに拉致られるリスクにさらされながら生きるか、俺たちに飼われてクリーンな金づるとして生きるか、どっちがマシか考えろ」
クリーンな金づる……?
訳が分からなくて混乱していると、桜井くんが俺たちの前に来てしゃがみこんで、ニタニタ笑った。
「オレたちに飼われてれば、絶対危ない目には遭わねーよ。まあ、不良の仲間入りなんで、親は泣くだろうけどねー」
松田くんもしゃがんで、真顔のままこちらに目を合わせる。
「俺たちは足がつくようなバカな金の取り方はしないから、そろそろたばこ部屋もおさらばかなと思ってる。流行りすぎたね。会員制にして、君たちのプライバシーには配慮しつつ、これからも金づるになってもらおうと思うんだけど。良い話だと思わない?」
どうしよう。
結局、人前で見せ物にされる状況は変わらないけど、あんな風に知らないひとたちにつかまるよりはマシだろうか。
それに、ここで断ったら、澤村くんが予告したリンチが有効になるだけな気もする。
松田くんが、ダメ押しとばかりに続けた。
「君たち、自覚してる以上に商品価値が高いんだよ。それで、ほんとに、飼いたがってる奴らがいっぱいいる。他校でまで噂になってるからね。奴隷にされて人生終わるよりは、高校生活を不良の手元で飼われて黒歴史にするくらいが妥協案としてちょうど良いと思うなあ」
吉野くんはどうかと顔を見たら、彼はこくりとうなずいた。
「分かりました。3人と一緒に行動します」
すると、桜井くんが笑顔でぴょんと立ち上がった。
「イエーイ! 金づる確保ー!」
はしゃぐ桜井くん。
松田くんは「うるさい」と言ってげんこつをくらわせたあと、吉野くんに向かって言った。
「で、吉野さ。いい加減しゃべってくんない?」
吉野くんは、じっと動かないまま黙っている。
「あの、実は吉野くんは……」
俺は3人に、吉野くんが場面緘黙 症であること、学校の敷地から出れば話せる時もあること、俺相手なら小声程度でしゃべれることを説明した。
もちろんそんなものがこの世にあるとは知らなかった3人は、最初は「へえ」という感じだったけど、特に気に留めないようだった。
「じゃあ、基本吉野はしゃべらないものとして扱っていいのね?」
松田くんが吉野くんに聞くと、吉野くんはこくりとうなずいた。
「返事もできねえのか。変な奴だな」
澤村くんはそう言って、たばこに火をつける。
「吸うか?」
たばこを勧められてしまった。
不良に飼われるということはこういうことなのだろうか。
断ったら殴られるか……とか色々考えていたら、桜井くんがにひひと笑った。
「たばこなんて、体に毒だわ金はかかるわで、良いことなしだし。やめとけやめとけー」
「死ね」
「オレは澤村より長生きするもんねー」
なんというか、いじめられていたときは3人とも本当に怖くて、ああいうひとたちは常にピリピリしているのかと思っていたけど……不良でも日常はこんな感じでゆるいのかと、ちょっと拍子抜けした。
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