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何時間経ったか、もう分からないけれど、目の焦点が合わない。
「んー、よしのくん。すきい」
甘えたくて頬を胸のあたりにこすりつけてみたら、髪の毛に手を差し込んで、するするとなでてくれた。
「きもちいいなー」
吉野くんはしゃべらないけれど、目を細めていて、ちょっと楽しそうに見える。
「きすしたい」
口をとがらせてちょっとねだってみると、ちゅっとしてくれた。
うれしくって、ぎゅーっと抱きついてしまう。
「あーあーごちそーさんだことでー」
遠くで桜井くんの声が聞こえる。
眠たい。
吉野くんにもたれかかってうつらうつらしていると、頬を引っ張られた。
「いたたた……」
見上げたら、引っ張った犯人は、くわえたばこの澤村くんだった。
「潰れるには早えぞ」
なみなみ注がれる透明なお酒――松田くんの家は、言えば無限にお酒が出てくるらしい。
のっそりと起き上がる。
吉野くんが耳元で「やめておけば?」と言ったけど、澤村くんのお酒を断るのは怖いし、眠いし、よく分からないけど飲もうと思う。
「いただきます。ん、からい」
眉間にしわを寄せたら、澤村くんに思いきり笑われた。
「日本酒はまだ分かんねえか」
「おいしくないです」
吉野くんが、俺の手からひょいとコップを取って、一気に飲んでしまう。
「渚は相当強いよね」
松田くんが感心したように言う。
「飲み比べすっか?」
澤村くんが挑むような目で見るので、割って入った。
「だめー。けんかはだめでーす」
「慧が言うんじゃしょうがねえな」
ぐりぐりと頭をなでられた。
「んー。みんな、こわそうだけどやさしいです。どっちがほんとですか?」
「怖いと思うよ」
松田くんが答えた。
「でもやさしいです。おうちによんでくれたり、します。あと、ほかのふりょうからまもってくれるっていいました」
「金目当てだよ」
桜井くんが笑う。
「おれとよしのくんがすきどうしなの、きもちわるいですか?」
「何とも思ってねえよ。ただ金になればいい」
澤村くんがつむじをぎゅうぎゅう押してくるので、痛くて両手で頭を押さえた。
「いたた……」
吉野くんがなでてくれる。気持ちいい。
「みんなとつるんでたら、おれもいつかふりょうになるんですか?」
「ならねえよ」
「どうしてですか?」
「すぐ泣くだろうが」
確かに。俺はすぐぼろぼろ泣いちゃう。
不良にはならないか。
別になるつもりもないけど。
一緒にいたらそうなるのかなと思っただけだし。
飲み過ぎた。ふらふらする。
「実は、黒板に相合い傘書いて『底辺ホモ』ってパワーワード出したの、俺なんだけどさー」
桜井くんが、ニヤニヤと俺の顔をのぞき込んできた。
「オレらが、慧と渚を、校内イチのトップ・オブ・ザ・ホモにしてやるよ!」
「何だそれ、趣味悪ィな」
呆れたようにぼやく澤村くん。
目をそらす吉野くん。
みんな、何の話をしているんだろう?
「安心しろよー。もう学校でイチャイチャしててもなーんも問題なくしてやるからな」
澤村くんが冷たい目で見る横で、松田くんは、何か思いついたように、「あ」と言った。
「ふたりを使えばあぶり出せるね。他人の弱みが」
「ん? 何がー?」
言い出しっぺの桜井くんが、小首をかしげる。
松田くんは何か難しい説明をし始めた。
「予想だけど、うちの学校って、隠してるだけで実はゲイだって人間、結構多いんじゃないかって思うんだよね。見ながらオナニーOKにしたとき、すごい客入りだったでしょ? あれ、ノリとか冷やかしにしては多すぎたと思って。だからね、付き合ってますとか、いると思うんだ。有力者の中にも」
「なるほど?」
澤村くんの目の色が少し変わった。
桜井くんも、うんうんとうなずく。
「まー、男子校だからなー。底辺同士で遊ばせてると見せかけて、食い散らかしてる奴もいるかも」
眠たい。関係ない話っぽいし、寝てもいいだろうか。
「弱みを握ってさよならしたら、簡単にチーム解体できるかも。渚、できる?」
なんか、吉野くんが相談に乗ってあげてるみたい。
優しいな。好き。
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