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8 拉致
3人と常に行動を共にするようになって、ようやく『派閥』とは何なのかが分かった。
いじめられていたときは、この3人だけがグループなのかと思っていたけど、実はそうじゃない。
3人は、次元の違う存在。
それで、派閥と呼ばれるひとたちは、常に一緒にいるわけではないけど、澤村くんに呼ばれれば来て、喧嘩に参加するとか犯罪をするとか……具体的には分からないけど、とにかくこの学校の不良たちは、誰かしらに属しているらしい。
澤村くんは2年生ながらに、3年生でも逆らえないひとたちがわんさといるほど、影響力があるようだ。
休み時間になると、嫌われないよう、名前を覚えてもらえるように媚を売りにくるひとたちが代わる代わる来て、対応に忙しそう。
……桜井くんが。
「誰だよお前、知らねーよ」
「2-Dの石井っす。この間ゲーセンの件で……」
「あー。めんどいからそれもうなしでいい?」
「えっ? いや、来ていただかないとちょっと」
「忙しいんだってば。ねー、慧?」
「あ、はい……」
3人が急に、いじめの対象だった俺と吉野くんを可愛がり始めて、周りは戸惑っているようだった。
目立つゆえに悪意のある目で見られるようにもなって、でも3人は、ますます俺たちを守ってくれるようになった。
大事な商品、大事な金づるだからだという。
「ふたり、ちょっとそこでイチャついてて」
松田くんに言われて、恥ずかしく思いつつ、手を繋いで、軽くキスしたり頭をなでてもらったり、スキンシップをする。
何かしら思惑があるのだろうけど、分からない。
でも多分それは俺たちは知らなくていいことで、ただ言うことを聞くしかないし、まあ、無理矢理嫌なことをさせられているわけじゃないからいいかと思う。
「吉野くん、ちょっと甘えてもいい?」
上目遣いで聞いたら、吉野くんはしばらくじっとこっちを見たあと、こくっとうなずいた。
両手を首の後ろに回して、長いキス。
どうして、唇をくっつけていると気持ちいいんだろう。
目を閉じてずーっと動かないでそうしていたら、吉野くんは俺の頭をぽんぽんとしてくれた。
目を開くと、なぜか松田くんに「えらいえらい」と言ってほめられた。
教室を見回すと、何人かがさっと顔を背ける。
「んー、いい感じで釣られてるねー」
桜井くんがニヤニヤする。
爆睡していた澤村くんが起きたところで、松田くんが何かを耳打ちしていた。
それからほどなくして、不思議な現象が始まった。
不良グループが、カップルを手元に置くようになった。
校内のカップルだからもちろん男同士で、でもいままでと違うのは、スクールカースト底辺の陰キャじゃなくて、ちょっと見た目がいいひとたち。
まさかそこが付き合っていたなんてと驚いてしまうような、どちらかというと陽キャ寄りのひとたちも、不良に目をつけられてそのまま飼われている。
「つまり、底辺に嫌がらせさせる遊びは終わって、マジで付き合ってるのを見つけ出して金づるにするのが流行り出した、ということです。慧、渚。君たちの頑張りのおかげです。よくやったよ。えらいえらい」
お客さんが入る前のVIPルームで、松田くんに言われた。
「あの、よく分からないんですけど……そうなるとどういう良いことがあるんですか?」
「人間っていうのは、だんだんエスカレートしていく生き物だから。いまは派閥の外から良さそうなのを見繕ってる状態だけど、そのうち、自分の派閥内に見つけちゃったら、余裕で生贄 にし始めるだろうね。それで、そいつらが派閥の上の方だったら? いままでいじめてきた奴らが、実はゲイカップルでした! 面白がってみんな叩くでしょ? 内部分裂の始まり」
やっぱり松田くんは怖いと思った。
そして、どんどん被害者が増えていることに、申し訳なさを感じる。
いまは守ってもらえているとはいえ、元はと言えば、俺が澤村くんの言うことを聞いてしまったらこんな見せ物が流行り始めてしまったのだ……という事実は、ずっと心に重くのしかかっている。
「はーい、お客さん入れるから。脱いだ脱いだー」
慣れたように声をかける桜井くん。
もう感覚が麻痺しつつあるけど、できるならこんなこと、いますぐやめたい。
でも、他に犠牲になっているひとたちのことを考えると、罪を償うような気持ちで、逃げずにやり続けなくちゃいけないのかなという気もする。
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