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8-2
ソファの上に、仰向けに寝転ぶ。
俺の太ももをぐっと持ち上げた吉野くんは、お尻のところをぺちゃぺちゃとなめ始めた。
「あ、やだ……ん、きたない、やだ」
わざと音を立ててなめる。
そんなところなめたら、ほんとにお腹壊したりしないかとか、心配。
なのに。
「ん、ン……ぁ、はあ、んぁ」
人としてダメなくらい興奮している。
「ぁあ、なめちゃだめ、んんっはあ……」
吉野くんは、ギャラリーに見えるように高く足を抱えて、わざと舌を伸ばして、先っぽでチラチラと……少し穴の中に挿れたり。
「あ、ん、他のも欲しい」
脚を下ろした吉野くんは、耳元に唇を寄せて聞いた。
「何して欲しいの?」
「おちんちん、こすって」
すっと目を細めた吉野くんは、舌で乳首をぐりぐりと押しながら、既に固くなったペニスを優しく上下した。
「ぁあ、ん、……んっ、ん、はあ」
声が上擦る。
吉野くんはもう、どこが気持ちいいのかを全部知ってるから、良いところをいじったり、少しポイントをずらして焦らしたり。
「んあ、ン……はぁ、吉野くん、きもちい……」
本能のままに言葉を垂れ流す一方で、今日は女性客が多いから、刺激の強い行為より丁寧なセックスを心がけたほうがいいな……なんてことを考えたりもする。
吉野くんが中に入ってきて、トントンとゆっくり突かれると、ふたりきりになったかのような錯覚に陥る。
「ぁ……吉野くん、好き、ん……はぁ、ん」
感情があふれて口から出た。
吉野くんも、俺の耳元に顔を寄せて「可愛い。好きだよ」と言ってくれて、背中からぶわっと何かがせり上がった。
吉野くんの温もりを求めて背中をかき抱いて、身悶 える。
のどが張り付くくらい嬌声を上げて、交わる。
「ぁあ、ん……っん、はぁっ、イッちゃう、もう、ン、んっ」
「いいよ」
「はあっ、あ、イッ、ぁあっ、ンッ……イク、イク……っ!っああぁああ!……!…………ッ!」
俺が熱をまき散らすのを、生唾を飲んで見守る大人たち。
悪趣味な人間相手にこんなことして、それでも気持ちよくなってる俺。
本当の優しさをくれるのは吉野くんだけだ。
……でも、それで十分な気もする。
この弱肉強食の世界で、歪んだ形とはいえ、好きなひとといられること自体が奇跡だと思う。
「慧、板についてきたね」
帰り道、松田くんがほんの少し笑って言った。
「職人の香りがする。ショーを盛り上げる演者として」
「そんなことない、です」
「いや、実際好評だよ。愛人にしたいって、結構な金額で交渉されたりするんだから」
人身売買……?
怖くなって吉野くんの手をぎゅっと握ったら、桜井くんが「売らねーよ」と言って笑った。
と、そこで、1番前を黙って歩いていた澤村くんが、ピタリと足を止めた。
前を見ると、いかにも悪そうなひとたちが3人。
制服を見るに、隣のヤンキー校だ。
「よっ、澤村じゃん」
澤村くんは、めんどくさそうにたばこの煙を吐く。
「あ、それ? 噂のペット」
半笑いで興味津々にこちらを見ている。
「ちょっとひと晩貸してくんない? 金なくてさあ」
ギャハハと笑うのを無視して通り抜けようとしたところで、相手の拳が降りかかってきた。
「無視してんじゃねえぞ!?」
しかし澤村くんは、無駄な動きゼロでそれを避ける。
「ってめえ!」
残りのふたりも入って、澤村くんを集中的に狙う。
「渚、駅に向かって走って」
松田くんが前を見据えたまま言う。
桜井くんは既に走り出していて、そのままひとりに飛び蹴りをくらわせていた。
吉野くんが俺の手首を掴んで、狭い路地に向かって駆け出す――大回りしてまくつもりだ。
一生懸命走るけど、足が遅くて体力のない、しかもさっきまで2時間以上見せ物になっていた俺は、すぐにバテてしまった。
「……はあ、はあ、ごめん」
「大丈夫。少し休んで、ゆっくり行こう」
路地のすきまのところに座って、呼吸を落ち着かせる。
と、頭の上から声が降ってきた。
「あれ、君たち」
顔を上げると、クラブに観に来る常連客の男性だった。
40歳くらいで、本当に普通な感じの、どこにでもいそうなサラリーマン風。
人懐っこい笑顔でこちらを見下ろしている。
「偶然だね。今日は修二くんたちはいないのかな?」
「えっと……いまはちょっと……」
なんと言っていいか分からずもごもごしていると、男性は、俺が何か言えないでいるのをくみとったようで、じっと俺の言葉を待ってくれている。
「あの……実はいま、逃げろって言われてるんです。3人は他校のひとたちに絡まれて、たぶんどこかで乱闘になってるかもで……」
「うわ、大変だ。君たち、居場所は知られてるの?」
「いまのところ大丈夫だと思うんですけど、俺がちょっともう動けなくて……」
情けなく言ったら、男性はあたりをさっと見回して言った。
「とりあえず、安全なところへ行こう。相手は何人でつるんでいるか分からないし、いまごろ血眼になって君たちを探しているかも知れない」
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