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 ソファの上に、仰向けに寝転ぶ。  俺の太ももをぐっと持ち上げた吉野くんは、お尻のところをぺちゃぺちゃとなめ始めた。 「あ、やだ……ん、きたない、やだ」  わざと音を立ててなめる。  そんなところなめたら、ほんとにお腹壊したりしないかとか、心配。  なのに。 「ん、ン……ぁ、はあ、んぁ」  人としてダメなくらい興奮している。 「ぁあ、なめちゃだめ、んんっはあ……」  吉野くんは、ギャラリーに見えるように高く足を抱えて、わざと舌を伸ばして、先っぽでチラチラと……少し穴の中に挿れたり。 「あ、ん、他のも欲しい」  脚を下ろした吉野くんは、耳元に唇を寄せて聞いた。 「何して欲しいの?」 「おちんちん、こすって」  すっと目を細めた吉野くんは、舌で乳首をぐりぐりと押しながら、既に固くなったペニスを優しく上下した。 「ぁあ、ん、……んっ、ん、はあ」  声が上擦る。  吉野くんはもう、どこが気持ちいいのかを全部知ってるから、良いところをいじったり、少しポイントをずらして焦らしたり。 「んあ、ン……はぁ、吉野くん、きもちい……」  本能のままに言葉を垂れ流す一方で、今日は女性客が多いから、刺激の強い行為より丁寧なセックスを心がけたほうがいいな……なんてことを考えたりもする。  吉野くんが中に入ってきて、トントンとゆっくり突かれると、ふたりきりになったかのような錯覚に陥る。 「ぁ……吉野くん、好き、ん……はぁ、ん」  感情があふれて口から出た。  吉野くんも、俺の耳元に顔を寄せて「可愛い。好きだよ」と言ってくれて、背中からぶわっと何かがせり上がった。  吉野くんの温もりを求めて背中をかき抱いて、身悶(みもだ)える。  のどが張り付くくらい嬌声を上げて、交わる。 「ぁあ、ん……っん、はぁっ、イッちゃう、もう、ン、んっ」 「いいよ」 「はあっ、あ、イッ、ぁあっ、ンッ……イク、イク……っ!っああぁああ!……!…………ッ!」  俺が熱をまき散らすのを、生唾を飲んで見守る大人たち。  悪趣味な人間相手にこんなことして、それでも気持ちよくなってる俺。  本当の優しさをくれるのは吉野くんだけだ。  ……でも、それで十分な気もする。  この弱肉強食の世界で、歪んだ形とはいえ、好きなひとといられること自体が奇跡だと思う。 「慧、板についてきたね」  帰り道、松田くんがほんの少し笑って言った。 「職人の香りがする。ショーを盛り上げる演者として」 「そんなことない、です」 「いや、実際好評だよ。愛人にしたいって、結構な金額で交渉されたりするんだから」  人身売買……?  怖くなって吉野くんの手をぎゅっと握ったら、桜井くんが「売らねーよ」と言って笑った。  と、そこで、1番前を黙って歩いていた澤村くんが、ピタリと足を止めた。  前を見ると、いかにも悪そうなひとたちが3人。  制服を見るに、隣のヤンキー校だ。 「よっ、澤村じゃん」  澤村くんは、めんどくさそうにたばこの煙を吐く。 「あ、それ? 噂のペット」  半笑いで興味津々にこちらを見ている。 「ちょっとひと晩貸してくんない? 金なくてさあ」  ギャハハと笑うのを無視して通り抜けようとしたところで、相手の拳が降りかかってきた。 「無視してんじゃねえぞ!?」  しかし澤村くんは、無駄な動きゼロでそれを避ける。 「ってめえ!」  残りのふたりも入って、澤村くんを集中的に狙う。 「渚、駅に向かって走って」  松田くんが前を見据えたまま言う。  桜井くんは既に走り出していて、そのままひとりに飛び蹴りをくらわせていた。  吉野くんが俺の手首を掴んで、狭い路地に向かって駆け出す――大回りしてまくつもりだ。  一生懸命走るけど、足が遅くて体力のない、しかもさっきまで2時間以上見せ物になっていた俺は、すぐにバテてしまった。 「……はあ、はあ、ごめん」 「大丈夫。少し休んで、ゆっくり行こう」  路地のすきまのところに座って、呼吸を落ち着かせる。  と、頭の上から声が降ってきた。 「あれ、君たち」  顔を上げると、クラブに観に来る常連客の男性だった。  40歳くらいで、本当に普通な感じの、どこにでもいそうなサラリーマン風。  人懐っこい笑顔でこちらを見下ろしている。 「偶然だね。今日は修二くんたちはいないのかな?」 「えっと……いまはちょっと……」  なんと言っていいか分からずもごもごしていると、男性は、俺が何か言えないでいるのをくみとったようで、じっと俺の言葉を待ってくれている。 「あの……実はいま、逃げろって言われてるんです。3人は他校のひとたちに絡まれて、たぶんどこかで乱闘になってるかもで……」 「うわ、大変だ。君たち、居場所は知られてるの?」 「いまのところ大丈夫だと思うんですけど、俺がちょっともう動けなくて……」  情けなく言ったら、男性はあたりをさっと見回して言った。 「とりあえず、安全なところへ行こう。相手は何人でつるんでいるか分からないし、いまごろ血眼になって君たちを探しているかも知れない」

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