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10 プチ家出

「5限、サボる」  澤村くんがボソッと言った。  めんどくさい、他人と協力なんかしたくないという澤村くんは、体育をよく休む。  俺の最近の悩みはこれで、飼われて守ってもらえるのはいいのだけど、授業を休むことが多くなって、進級できるのかちょっと心配だ。  それから、親。  オールで帰ってこないことが多すぎるし、学校からサボりの連絡がしょっちゅう入っているらしい。 「慧、一体どんな連中とつるんでいるんだ? 悪い交友関係はやめろ」  金曜の夜、俺は、両親の前で正座させられていた。  本当のことなど言えるはずがないので、黙って地面を見つめる。 「もしかして、いじめられてるんじゃないの? それならそうと母さんたちに相談しなさい。先生に言ってあげるから」  いまさらそんなこと言われても、引き返せるわけがない。  いじめに気づくなら、もっと初期にして欲しかった。 「えっと……学校はちゃんとサボらないで授業出るから、友達との遊び方とかは自由にさせて欲しいんだけど……」 「泊まり歩いたりして、ダメに決まっているだろ」 「友達と合わせないと学校行きづらいから……」  偏差値底辺の掃き溜め校にしか受からなかった時点で、親にはもうあきらめて欲しい。  むしろ、中学は家に引きこもって全然学校に行っていなかったんだから、一応毎日通っているだけマシと思ってもらいたい。  父は、はあっとため息をついた。 「だから、どんな友達と付き合っているんだと聞いてるんだ。答えなさい」 「……う、うるさいなあっ。そのひとたちと遊ばないとまた学校行けなくなるんだよっ」  泣きそうになりながら大声をあげた。  親に『うるさい』と言うなんて、生まれて初めてだ。 「うるさいとはなんだっ」 「父さんは俺が高校中退でもいいの?」 「いじめられているなら、通信制高校に転校してもいいのよ」 「別にいまのままでいいよ。だからほっといて」  立ち上がって部屋に戻り、カバンを持ってバタバタと出かけた。 「コラ、どこへ行くんだ!」 「うるさいっ」  飛び出してきてしまった。  どうしよう。  行くあてとか、何も考えずに出てきてしまった。  とりあえず吉野くんにLINEを送ってみる。 [家出しちゃった。どうしよう]  ほどなくして、電話がかかってきた。 『どうしたの? 何かあった?』 「親と喧嘩して飛び出してきちゃったんだけど……どこに行くとか全然考えてなくて」 『ひとりじゃ心細いでしょ。いまから行くよ』  こんな時間にわざわざ申し訳ない、と思ったけど、吉野くんは家族から無視されてて、いつでかけても関係ないみたいなことを言っていた気がする。 「ありがと。待ってる」  早く会いたい。  カラオケも漫画喫茶も、未成年だと夜は入れなくて、困ってしまった。  いつもは澤村くんたちがいるからなんとなくで入れていたけど、華奢な吉野くんもさらに背の小さい俺も、どう見ても未成年だから無理だ。  ……で、考えた結果いま居るのが、ラブホテル。  バイトをしていない身としては清水の舞台から飛び降りるような値段だったけど、受付で名前を書いたりしなくていいから、もうここしかなかった。 「なんか、ふたりで泊まるとか、ドキドキする」 「そうだね。あ、お風呂一緒に。入ろうか」  ふたりきりだと吉野くんが普通にしゃべってくれるから、なんか新鮮。  というか、こんなにちゃんと話すのは初めてかも知れない。  休日にデートとかはしたことがなくて……というのは、してみたいとは思いつつ、男同士でどこへ出かけていいか分からないし、お互い家は無理で。  だから実は、誰も見ていない状態で抱き合うのも初めてだったりする。  泡風呂にして、チカチカするライトの色を変えて遊んだり、本当にどうでもいいことなのに楽しい。  体の洗いっこをしたら、それだけでちょっと勃ってしまって、恥ずかしかったけど、吉野くんは、可愛いと言って笑ってなでてくれた――彼がこんな風に笑うのも、初めて見た。

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