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お店を貸し切ってやると聞いた時はかなり驚いたけど、この間DJイベントに招いてくれた澤村くんの知り合いが、経営しているレストランを格安で提供してくれるらしい。
そして大胆なことに、他の派閥のひともどうぞどうぞにしたらしく、1年生のチームの上層部のひとたちが来るとか、他校の知り合いだとか、多方面連絡が来ているらしい。
店の前に来て、思わず、ほへーっと口を開けて見上げてしまった。
すごくキラキラしたバーだ。50人くらいは余裕で入りそう。
さすがに緊張してきた。
お店のひとにあいさつをして、時間まで、バックヤードに待たせてもらう。
「君ら、修二のおもちゃなんだって?」
店長だという彼は、不良というよりは、ヤンチャそうな大人。
でも、気さくな感じに話しかけられても、どう反応していいか困ってしまう。
「怖がってんだろうが」
澤村くんが舌打ちしたら、店長さんはゲラゲラ笑った。
「時間だぞー」
桜井くんに声をかけられて客席に出たら、いつも好奇心で見にくる層とはちょっと違う面々だった。
というか、好奇心のひとたちは後ろの方で遠慮がちにしていて、前の方は、明らかに怖そうなひとばかり。
テーブルの上にはビュッフェ形式で軽食が並んでいて、みんな既につまんでいる。
もじもじしていたら、桜井くんに首根っこを引っ掴まれて、雑に椅子に座らされた。
松田くんが、店のマイクを借りて進行をスタートする。
「じゃあ、早速始めたいんですけど、今日はみんなわざわざ来てもらったんで、派閥のこととかは抜きに楽しく飯食ってってください。で、いきなり穴開けさせてもつまんないんで、ふたりのなれそめからご紹介します」
「えっ……?」
聞いてない。思わず吉野くんの服の裾を握りしめたら、爆笑された。
「こちら、倉持慧くん。運悪く俺たちにカツアゲされるも、2週間で資金が底をつきます。ママ活、ゲイビデオ出演などいくつか案はあったものの、澤村の鶴の一声で、こちら、吉野渚くんと公開キスでお金を稼ぐことになりました」
テーブルの上を見ると、普通にお酒が提供されているらしい。
盛り上がり方がシラフじゃないから、変なことにならないといいなと、心の底から願う。
「やってみたら大好評。面白いんでまたやらせることになったんですが、澤村が思いつきで、吉野くんに、倉持くんをイかせるよう命じます。そしたら吉野くんなんと、いきなりごっくんしました」
……死にたい。
可愛がられているので忘れそうになるけど、本質的にこのひとは自分の利益を得ることが全てで、そのためなら普通に、こうやって飼い犬を辱 めるんだ。
「んで、何度か体を重ねるうちに、お互い本当に恋に落ちてしまいました。俺たちに無慈悲にいじめられつつ、愛を育みます」
ドッと会場が湧く。
「俺たちは色々な方面に収入源を持っていますが、悪趣味なみなさんのおかげで、この底辺ホモふたりが、群を抜いてトップの稼ぎ頭になりました。そしてここで、風向きが変わります。某団体に拉致られました」
どよめきが起こる。
でも半分ぐらいの人たちは平然としていたので、知ってるひとは知っている事件だったのかもしれない。
「大事な収入源を取られたら困る俺たちは、ふたりを飼うことにしました。愛し合うふたりは、俺たちの庇護 を受けながら、他人にセックスを見せつつ絆を深め、本日このようにしてロマンチックなピアス開通式を開くに至りました。なお、慧くんは本気のビビリなので、愛があっても多分泣き叫びますからお楽しみに」
爆笑のまま拍手されて、絶望した。
松田くん、『別に嫌がらなくてもいい』なんて言ってたのに……この展開じゃ、泣いて嫌がらないとダメじゃないか。
澤村くんが手招きしてきたので、ふたりで目の前まで行った。
「手出せ」
言われた通り、両手をお皿にして出すと、それぞれ、同じピアッサーが手渡された。
「消毒しねえと膿むから、開ける前によーく耳なめろよ」
なめるのが消毒になるわけないので、要するにショーとしてやれということなのだろうけど……それにしても、膿むと聞いて怖くなってしまった。
そっと吉野くんの顔を見ると、頭をぽんぽんとなでられた。
元の位置に戻ったら、いすは撤去されていたので、立ってやるらしい。
松田くんが、俺の顔をのぞき込む。
「どっちからやりたい?」
「えと……俺、先に開けてもらいたいです。吉野くん、いい?」
彼がこくりとうなずいてくれたので、決まった。
お互い向き合う。怖くて、震えてしまう。
吉野くんはぎゅうっと抱きしめてくれて、後頭部を何度かなでたあと、キスしてくれた。
わっと会場が湧く。
吉野くんの舌が口の中に侵入きてきて、思わず甘ったるい声が漏れた。
「ん、ん……」
あえて音がするようにクチュクチュと口づけられて、恥ずかしさと緊張と恐怖がない混ぜになった結果、松田くんの予言通り、俺はあっという間に泣いた。
「吉野ー泣いてんぞー! なんとかしてやれよー!」
外野がはやし立てる。
吉野くんは、耳元に唇を寄せて、聞いた。
「どのくらいまでしていい? 首筋なめるくらいはいいかな?」
「ん、任せる……」
吉野くんは俺の肩を掴んだと思ったら、喉仏をあむっと甘噛みした。
「ぁ……」
そのまま、ちゅ、ちゅ、と音を立てながら、首筋から右耳の裏を、何度もキスされたり、なめられたり。
「ん、はぁ……、んっ」
涙は全然止まってないけど、緊張しないように考えてくれているのだと思ったら、パニックはいくらか落ち着いた。
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