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焼肉をたらふく食ってから、翔也さんに家まで送ってもらった。 家の前で車を停めてもらって、礼を言ってドアを開ける。家の前からヌルッと人影が現れたのは車から降りて気がついた。 「立夏…。」 「何してたの、皐月…。」 普段の声音からは想像できないくらいの低音ボイス。いつもニコニコと笑っているイメージが強い立夏の顔。それも今は真顔だ。 イケメンの真顔は強烈だ。なんて、そんな言葉を聞いたことがある。その通りだ。こんな立夏今まで見たことがない。そのくらい恐ろしく怒っていた。 「ああ、その男が翔也さんか…。」 「立夏、俺…。」 「皐月はさ、相変わらず俺を怒らせるの上手だよな。それも無意識に。」 ゾクリとした。見たことのない立夏の姿に涙が出る。それゃ、たしかに俺、最低だ。翔也さんも立夏にもどっちつかずだし。 「君が立夏くんか。そんなに皐月くんを怖がらせないでくれ。今日は俺の方から誘ったんだ。俺は彼が好きだからね。」 車から降りた翔也さんに立夏がグッと近寄る。翔也さんのネクタイを引っ張った立夏に俺は酷く焦った。 ああ、こんなの、こんなのダメだ‼︎ 俺は翔也さんと立夏の間に割って入った。 「皐月、どけ。」 「ダメ‼︎俺、俺…。」 「皐月‼︎」 「俺‼︎立夏がネコになってニャーニャー言う姿なんて見たくない‼︎」 「は?」 「あっ…ははは。」 一瞬の空白。そして、立夏は深い溜息をついて、頭を抱えた。 「皐月、その気持ち悪い妄想はどこからきたんだ。」 「え?だって翔也さんが…俺はバリタチだからネコになることはないって。可能性があるとしたら立夏がネコになることだって言ってたから。」 俺、幼馴染がネコになって鳴くなんてそんなの見てられない。 「俺もバリタチだ‼︎あほっ‼︎」 「えっ、そうなの?」 「アホだアホだと思ってたけど、本当にどうしようも無いアホっ‼︎どうせ、この翔也さんに会ったのも消しゴムかなんかを転がして決めたんだろ‼︎わかってんだよ、そんなの。」 えっ、なんで分かったの…。 こわっ…。 「俺とのこともあるから、素直に誘われて乗るのもなんか違う。んで最終的に運任せで決めたんだろ。想像つくぞ。で、今日デートしてそいつの良さってやつを知ってから、ころっと落ちそうになってることくらいもな‼︎」 幼馴染すごい。 「ああ、もう!分かりやすいな。誰でもそのくらいお前の顔見れば分かるから。怒り通り越して呆れた。今日は許してやるから、さっさっと風呂入ってこい!そいつの匂いが取れてなかったら死ぬまで快楽漬けにしてやるからな!」 俺、快楽漬けにされるのか…。怖っ。さっさっと風呂入ろう。 「翔也さんだったか、あんたの顔見て本気だって理解したよ。でもな、俺だってこのアホのことは十何年も想ってんの。ぽっとでのあんたに負けねぇから。帰るっ‼︎」 そう言って、立夏は自宅に帰って行った。直ぐそこだけど。 「すごかったね。立夏くん。」 「ああ、なんかごめんなさい。」 「彼が本気になればすぐに君を拐われてしまうんだろうね。…でも、諦めたく無いな。 また会ってくれたら嬉しい。消しゴムでも鉛筆でも回して貰っても構わない。君が俺に会ってくれるならどんな理由でも嬉しい。じゃあ、また。」 ちゅっと音を立てて俺の額にキスをした。 俺は翔也さんの車が見えなくなるまでジッとその場に固まっていた。 「最後までスマートな大人な男だ…。」 いろいろありすぎて、頭が痛くなる。全ては自分のせいだが、なんとも考えたく無い。 取り敢えず、翔也さんが立夏を好きになることはないと言うことは理解した。そして、立夏もネコになることはないらしい…。 あれ、俺、やっぱりどうすればいいの? 悩み悩んだ末、面倒くさくなって家へとそのまま入った。もちろん、すぐに風呂に入った。

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