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高校三年生になった、春。部活動を引退してからは心置き無くアルバイトに専念できるようになった。 いわゆる青春と呼ばれる時期を働き詰めで潰してしまうことを寂しいと感じなくはないが、家族のためを思えばこそだ。 俺の名前は西 明宏(にし あきひろ)。私立薇獲学園高等学校に通う、まあ苦学生というやつだ。この辺りでは特待生の奨学金制度が一番充実している学校。 幼少期に母親を亡くしてから父親がたびたび離婚を繰り返す様を眺めてきた。三度目を数えた時、流石の俺も堪忍袋の緒が切れて。 「あ!明兄お帰り!」 バタバタと駆け寄って来た子供は二人。話の流れで引き取ることになった、腹違いの兄弟達。 「ただいま。何も無かったか?」 頭をひと撫でしてやって、靴を脱ぐ。居間へ向かえば変わった様子もなく学校から帰ってきた残りの兄弟が出迎えてくれた。 一番上は中学一年生の妹。 二番目は小学四年生の弟。 三番目は小学一年生の弟。 末っ子は保育園、四歳の妹。 「今日もバイト?」 「ああ。悪いがよろしくな」 苦笑すれば、任せてと胸を張る。口下手で不器用な自分だけが親代わりになることは、正直不安だった。しかし予想に反して皆良い子に育ってくれたものだ。 着替えを済ませ、時計を確認して家を出る。 家から徒歩数分の場所にあるスーパー。時給はそれほど高くないが、スタッフの人柄のおかげで人間関係も良好だと思う。 父親から毎月の生活費として口座に振り込まれる現金は多くもなく少なくもなくと言った額で。少しでも足しになればと働き始めたわけだ。 「あ、西くん!それ終わったら棚の整理してきてくれる?お菓子のところがね、やっぱりどうしても荒れちゃうのよ」 「分かりました」 助かるわ、と笑う主婦の先輩に頷いて通路へ向かう。子供が多く利用するその場所はどうしても雑然としがちだ。 (……おや) 角を曲がって、目に入った影。直接の関わりはなくとも学園に在籍している三年生なら誰でも知っているであろう、()の人。 上條 椿(かみじょう つばき)。美醜に疎い俺でも分かる、本物の美貌。絶世の美形だとか傾国の美人だとか。騒ぐ奴らは嫌というほど見てきた。 違うクラスにおいて、当然ながら面識は無い。素知らぬ振りをして任務を遂行しようか。ひとつ呼吸を置いて近寄ろうとした、が。 その綺麗な横顔は思い詰めたように歪んでいて。どうも菓子を買いに来たような雰囲気では無く。 (…まさか、) 手に取った小ぶりな菓子が、今にもポケットに吸い込まれようとする様はまるでスローモーションのようで。気付けば駆けていた。

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