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4.
「お疲れ様」
従業員用の裏口から出ると、果たして彼はそこに居た。ああは言ったものの、本当に待っているのか一抹の不安もあったから。
暗がりの中、仄白く浮かぶ上條の顔は笑みを象って。
驚きを隠すために黙って歩き出すと、さして気にした様子もなく小走りで着いてくる。
「…もし俺が悪人だったらどうするんだ」
ふと感じたのは危機感の無さ。いくら何でも無防備すぎやしないだろうか。
「そんな風には見えないけれど。…まあ、大丈夫さ」
歌うように呟いた上條を見遣る。大丈夫、の意味が分からない。
「兄ちゃんお帰り!……あれ?その人は?」
四年生の弟が首を傾げた。何と説明しようか言葉を探しあぐねる俺の隣で彼が笑う。
「こんばんは。突然お邪魔してすまないね。私はお兄さんの友人だよ」
「なあんだ、彼女かと思ったのに!」
そう言い残して中へ戻って行く背中を呆然と見送った。
(彼女…?)
改めて上條を眺める。
淡雪のような色白の肌はキメが細かく、まるで陶器。長い睫毛に縁取られた二重瞼と、その奥に控える涼し気な瞳。スッと通った鼻梁の下には小ぶりながらも存在感の有る唇。化粧を疑うほどの紅色に、慌てて目を逸らした。
成程、確かに女性と間違えられても仕方ない。一人納得して頷けば、ひとつ肩を竦めた。
「…小さい頃からの教育でね、どうも一人称は変えられなくて」
勘違いさせてしまったかな、と。傾げる首をさらり滑った長めの黒髪。中性的な声音も耳当たりが良い。
それにしてもどんな教育を。喉元まで出かかった疑問は飲み込んで靴を脱いだ。
「…狭くて申し訳ない」
首を振った上條は小さな座卓の向こう側へ座る。静岡の祖母から送られてきた茶葉で淹れた緑茶を差し出せば、ふと零れる吐息。
「それで?どうして…」
あんな事をしたのか。
隣の部屋で眠る弟達に気を遣いながら言葉を濁す。しばらく手元の湯呑みを見つめた上條は、ややあって口を開いた。
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