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6.
土曜日の夕方。ある程度のことを教わってから西を送り出す。
「すぐに出られるかは分からないが、何かあれば連絡してくれ」
教えられたのは電話番号。裏紙に記されたその十一桁を大事に仕舞う。
角を曲がった背中が見えなくなってからすぐ、駆け寄ってくる次男と三男。
「なあなあ、名前は?」
「今日は兄ちゃん居ねえの?」
「こら、アンタ達!」
矢継ぎ早に繰り出される質問を咎めたのは長女。大丈夫だと笑って靴を履く。
「結衣ちゃん、迎えに行ってくるよ」
「すいません…お願いします。こいつらの面倒見てるので」
「ついでに朝食の買い出しもしてくるから、少し遅くなると思うけど」
ひらりと手を振って鍵を閉める。教えられた保育園への道すがら、冷蔵庫の中身を思い出す。少ないそれが、質素な暮らしぶりを表していて。
(…何にしようか)
結衣ちゃんに聞いてみるのも良いかもしれない。知ったばかりの名前を口内で呟いて、笑った。
「あ!明兄のお友達!」
駆け寄って来た彼女は、昨日の一件で偉く懐いてくれたようで。西のように抱き上げるには足りない腕力を恨めしく思いながら、手を繋いだ。
「先生さようなら~」
「はい、また明日ね」
「失礼します」
西が事前に連絡してくれていたおかげで、スムーズに引き取りが終わった。
「結衣ちゃん、明日の朝は何が食べたい?」
「朝?うーんとねえ……」
ちょいちょいと手招きされ、同じ目線までしゃがむ。内緒話のように口元に手を当てた彼女からのリクエストに頷いてスーパーへと向かった。
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