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8.
またやってしまった。
視界がはっきりする中、真っ先に浮かんだのは後悔の文字。
「―――…か、」
「忘れてくれ」
名を呼ばれるよりも早く、彼の下から抜け出す。リビングへ駆け込み、荷物を掴んだところでふと視界に入る置き手紙。
過ぎる情景に一瞬だけ目を細め、玄関を出る。
「上條!」
「…っ、」
じんと熱を伝えてくるのは捕らわれた手首か。
「お前が置かれている環境がどうであろうと、俺は気にしない。聞こうとも思わない。ただ、何かあれば味方になる。そういう奴が、ここに一人は居るという事を」
覚えておいてくれ。
短い時間を共にして分かった、口数の少なく不器用な西。実はとても優しいひと。
「…朝飯、ありがとう。頂くよ」
するりと離される手のひら。その温もりに縋ってしまいたくなる自分を叱咤して、甘い記憶に背を向けた。
今日が日曜日で助かったと思う。
同じ学校だからどうこうと言う訳ではないにしろ、時間が経っていなければ多少の気まずさはある。
まあ、週が明けたところで所詮今までと同じだ。
(……本当に?)
それで良いのか。
臆病な自分を変えたいと願う、その前に。
彼をもっと知りたい。仲良くなりたい。単純に求める心。
(隣の、クラス…)
階段を下りきったところで、背後のアパートを見上げる。ぎゅっと拳を握って密かに決意を固めた。
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