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9.
月曜日。半分ほど散ってしまった桜を眺めながら学校へ向かう。
昨日の晩、上條が用意してくれたのは、非の打ち所のない和朝食だった。
下ごしらえのおかげでいつもより早く準備を終え、子供達を起こしに向かおうとした時。
「おはよう…」
「結衣、早いな」
いつも最後まで寝ている末っ子の彼女が、自ら起きてくるとは。何事だと驚いて抱き上げる。
「良い匂いがしたから…」
「ああ、朝ご飯か」
「うわぁ…すごい!」
腕の中から食卓を見下ろす彼女は目を輝かせて。解放してやると、顔を洗ってからいそいそと机の前に座った。
「あのね、昨日ね、椿ちゃんに頼んだの!」
「椿ちゃん…?」
アニメのキャラクターだろうか。白ご飯をよそって首を傾げる。ぷくりと頬を膨らませた彼女は、小さな手でそれを受け取った。
「保育園にもお迎えに来てくれたよ?」
言われて合点が行く。上條の名前は椿だ。
「そうだったのか」
「旅行で食べた朝ごはんみたいなのが良いって話したらね、色々聞いてくれて、だから今日は楽しみにしてたんだ!」
まだ結衣が小さかった頃、父親が子供達全員を連れて旅館へ行ったことがある。味噌汁を置いて頷いた。
「椿ちゃん、また来る?」
「…さあ。どうだろう」
きっと来ない、とは言えなかった。白米を口に運んで目元を綻ばせる彼女には。
「西~おはよ!」
「おはよう。今日も元気だな」
背中を叩いてきた友人に笑いかけて席につく。普段と同じように午前中の授業を受けて、昼休み。
「購買でパン見てくるけど、お前は?」
「ああ、俺も行こう」
連れ立って席を立った先、教室の入口がどうも騒がしい。先生が来ているのかとぼんやり考えたが。
「…えっ、あれ…!」
隣の友人が震える指で示したのは。
「………西、」
大勢の生徒に囲まれ困惑する上條の姿だった。滅多に自分の教室から出ないと噂の彼が、まさかこのクラスに訪れるとは。珍しいもの見たさに集まった同級生を押しのけて目の前へ。
「ええと……すまない、こんな事になるとは…」
「場所を変えよう」
このままでは目立って仕方が無い。ほっとしたように頷く彼の手を取って歩き出した。
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