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月曜日。半分ほど散ってしまった桜を眺めながら学校へ向かう。 昨日の晩、上條が用意してくれたのは、非の打ち所のない和朝食だった。 下ごしらえのおかげでいつもより早く準備を終え、子供達を起こしに向かおうとした時。 「おはよう…」 「結衣、早いな」 いつも最後まで寝ている末っ子の彼女が、自ら起きてくるとは。何事だと驚いて抱き上げる。 「良い匂いがしたから…」 「ああ、朝ご飯か」 「うわぁ…すごい!」 腕の中から食卓を見下ろす彼女は目を輝かせて。解放してやると、顔を洗ってからいそいそと机の前に座った。 「あのね、昨日ね、椿ちゃんに頼んだの!」 「椿ちゃん…?」 アニメのキャラクターだろうか。白ご飯をよそって首を傾げる。ぷくりと頬を膨らませた彼女は、小さな手でそれを受け取った。 「保育園にもお迎えに来てくれたよ?」 言われて合点が行く。上條の名前は椿だ。 「そうだったのか」 「旅行で食べた朝ごはんみたいなのが良いって話したらね、色々聞いてくれて、だから今日は楽しみにしてたんだ!」 まだ結衣が小さかった頃、父親が子供達全員を連れて旅館へ行ったことがある。味噌汁を置いて頷いた。 「椿ちゃん、また来る?」 「…さあ。どうだろう」 きっと来ない、とは言えなかった。白米を口に運んで目元を綻ばせる彼女には。 「西~おはよ!」 「おはよう。今日も元気だな」 背中を叩いてきた友人に笑いかけて席につく。普段と同じように午前中の授業を受けて、昼休み。 「購買でパン見てくるけど、お前は?」 「ああ、俺も行こう」 連れ立って席を立った先、教室の入口がどうも騒がしい。先生が来ているのかとぼんやり考えたが。 「…えっ、あれ…!」 隣の友人が震える指で示したのは。 「………西、」 大勢の生徒に囲まれ困惑する上條の姿だった。滅多に自分の教室から出ないと噂の彼が、まさかこのクラスに訪れるとは。珍しいもの見たさに集まった同級生を押しのけて目の前へ。 「ええと……すまない、こんな事になるとは…」 「場所を変えよう」 このままでは目立って仕方が無い。ほっとしたように頷く彼の手を取って歩き出した。

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