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11.
それから梅雨を経て、蝉が鳴き出す季節になった。
「しっかし今でも信じられねえ…」
「うん?」
隣で机に突っ伏していた友人はガバリと起き上がってひとこと。
「なんで西が上條さんと仲良くしてんだよ!」
「…成り行き、か」
至って真面目に答えたつもりが、再び机との距離を戻す友人。天然がどうのと呟く彼に言わせれば、俺は上條のボディーガードらしい。
曰く、「強面だからそれっぽい!」だとか。
あれ以来たびたび、というかほぼ毎日のように家へ顔を出す上條。当初の悩みは解決していないらしいが、それでも以前よりは明るく、また雰囲気も柔らかくなった。
そうなってくると取り巻きも増えるというもので。本人は困り果てているそうだが、周りはお構い無しだ。
違うクラス故にこればかりはどうしようもないと肩を竦めた俺に飛んできたペットボトル。記憶に新しいあれは痛かったと、遠い空を見つめる。
「ひろ!」
「ほーらお姫様のお出ましだぞ」
「上條は男だ」
「へいへい」
もう何度目か数えるのを止めてしまったやり取り。あっちへ行けと手を振る友人に苦笑して席を立つ。
「今日で一学期も終わるなんてね」
「早かったな」
隣を歩く上條からの呼び方も変わった。子供達が明兄と呼ぶのに対し、それならば自分は"宏"と呼ぼうと。
逆に一度、名前で呼んでほしいと言われたが、既に子供達が実施済みだと断って以来ずっと苗字のままだ。
「そういえば、もうすぐ近所の神社で祭りがあるらしい」
「夏の風物詩、良いねえ」
「…行くか?」
えっ、と呟いて立ち止まる上條の首筋を伝う汗。それこそ"夏"を感じて目を細める。
ややあってこくりと頷いた彼に、浴衣で来いと指定されるのは数秒後の話。
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