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13.
お囃子と太鼓の音が鳴り響く中、ため息をついた。
(…まさか)
この歳で迷子になるとは。
祭りは予想以上の人混みで、案の定というか何というか。
「お姉さん、一人?」
ああ、こんな時に。問いの前者も後者もハズレと気付かずしつこく声を掛けてくる男達。
まともに相手をするだけ無駄だと足を動かす。
西もきっと自分を探してくれている―――はず。
「おい、こっちが甘い顔してれば調子乗りやがって…!」
軟派な男というものは、どうしてこうも単細胞ばかりなのか。掴まれた手首を冷ややかに見つめる。
仕方ないが暫く合わせてやるか、とため息をついた時。
「探したぞ」
男達よりも頭ひとつ飛び抜けた位置から見下ろす、西。常の無表情が僅かに険を増しているような気がして。
「チッ……連れが居るなら言えよな」
そそくさと退散する彼らを眺めた西は、何とも言えない表情で私の手を取った。
「…大丈夫か」
彼の目が注がれているのは、赤くなった手首。元の体質か白い肌のせいか、色が残りやすいのだと説明して安心させる。
「もうすぐ花火が上がるらしい。行こう」
背を向けた西。少し迷って、隣に並ぶ。
揺れる指先をつつけば、高い位置から降ってくる視線。ふと緩んだそれに勇気づけられ、自らの指を絡めた。
「また迷子になりそうだからな」
からかうように告げた西へ、顔をしかめる。好きで迷子になった訳ではないのに。
ざっくり結い上げた髪を気にしてか、軽く触れるだけの動作。たったそれだけの仕草に彼の人柄を感じて、ふわりとあたたかい気持ちになる。
聞こえ始めた花火の音に逸る心を抑えながら、歩を進めた。
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