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15.

夏休み。久しぶりに訪れた京都。 キャリーケースを引きながら、考えるのはやはり西のこと。 あの祭りの日。咲いては消える花火の下、静かに散らした涙はきっと気付かれていない。 (……鈍感すぎるのも) 考えものだ、と。ほろ苦く笑って門を潜った。 「まあ、椿様!お帰りなさいませ」 嬉しそうに破顔する女中の姿を見つけて、こちらも口元が綻ぶ。煩く鳴く蝉の声を背に帰省の旨を告げた。 「只今奥様に伝えて参りますね」 暫くお待ちください、と。通された座敷で深呼吸する。畳を貼り変えたのか、い草の香りが心地良い。表面を撫でると程なくして女中が戻って来た。 「丁度お手隙のようで、こちらに着替えてからおいで下さいと」 差し出された緋色の着物。ありがとうと受け取ってふと思い出す。西が着ていた浴衣とは全く違う、反対の色。 「あの…」 「うん?」 目の前の女中に首を傾げれば、胸元で組み合わせた手を動かし、おずおずと切り出した。 「…椿様、何だか変わられましたね」 「え……?」 目を見開く。小さい頃から私を見てきた彼女の言葉だけに、なおさら衝撃だった。 「あっ、いえ…!その、悪い意味ではなく!」 慌てて手を振る彼女は更に言い募る。 「そうですね……例えるなら、蕾が開き始めたような…」 「―――…」 「誰かを想う、そんなお顔をしていらっしゃいます」 ふわりと笑って一礼し、音もなく下がる。残された私は閉まった襖を暫く眺めていた。

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