15 / 25
15.
夏休み。久しぶりに訪れた京都。
キャリーケースを引きながら、考えるのはやはり西のこと。
あの祭りの日。咲いては消える花火の下、静かに散らした涙はきっと気付かれていない。
(……鈍感すぎるのも)
考えものだ、と。ほろ苦く笑って門を潜った。
「まあ、椿様!お帰りなさいませ」
嬉しそうに破顔する女中の姿を見つけて、こちらも口元が綻ぶ。煩く鳴く蝉の声を背に帰省の旨を告げた。
「只今奥様に伝えて参りますね」
暫くお待ちください、と。通された座敷で深呼吸する。畳を貼り変えたのか、い草の香りが心地良い。表面を撫でると程なくして女中が戻って来た。
「丁度お手隙のようで、こちらに着替えてからおいで下さいと」
差し出された緋色の着物。ありがとうと受け取ってふと思い出す。西が着ていた浴衣とは全く違う、反対の色。
「あの…」
「うん?」
目の前の女中に首を傾げれば、胸元で組み合わせた手を動かし、おずおずと切り出した。
「…椿様、何だか変わられましたね」
「え……?」
目を見開く。小さい頃から私を見てきた彼女の言葉だけに、なおさら衝撃だった。
「あっ、いえ…!その、悪い意味ではなく!」
慌てて手を振る彼女は更に言い募る。
「そうですね……例えるなら、蕾が開き始めたような…」
「―――…」
「誰かを想う、そんなお顔をしていらっしゃいます」
ふわりと笑って一礼し、音もなく下がる。残された私は閉まった襖を暫く眺めていた。
ともだちにシェアしよう!