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深呼吸した上條は、しばらく考え込んで。 「……君には、関係ない」 そうして、はっきりと。その言葉を向けた。明らかな拒絶。 「もう行くよ」 立ち上がった彼からふわりと漂う匂い。それは、夏まで慣れ親しんだ香りでは無くて。 砂利を踏む音が消えてから、何分経っただろうか。空いた隣に置かれたペットボトル。手に取って、自分も腰を上げる。 (…こんなものか) 明日からは、もう彼の居ない日常が始まる。たった数ヶ月前に戻る、それだけなのに。 笑みひとつで流せないほどには、同じ時を過ごしてしまった。 あれから一週間。噂好きだが持続性のない高校生も、こと上條に関しては根強い粘りを見せている。お陰でこちらも労せず彼の動向が窺える訳なので、感謝するとしよう。 「西さ、上條さんと喧嘩したのか?」 いつものように尋ねてくる級友に悪意はない。ただ、今はその純粋すぎる瞳と言葉が痛いと思う。 黙って首を振る。曖昧に微笑んだ俺を見て昼食のパンに手を伸ばした彼は独りでに語り出した。 「前も神聖なオーラがあって近寄り難かったけど、今はなんつーか…輪をかけて儚いっていうの?ガードが緩くなったっていうか…」 カレーパンを頬張る彼は更に続ける。 「茶道部の女子に聞いたけど、部活が遅くなる時は送って行ってやりたいぐらいの雰囲気らしいぜ。まあ女子だからってやんわり断られ続けてるみたいだな」 そうか、と。話半分で聞き流した。どちらにせよ上條はもう俺を必要としていない。 その人外じみた美貌から敬遠されがちな彼だが、人当たりも良く何でもそつなくこなす。誰もが友人にしたいと思うだろう。 理由付けをして納得しようと試みるが、やはり心は晴れないまま。ため息を押し込むようにコーヒーを流し入れた。

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