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抱いて欲しい、と縋る上條。女人(にょにん)と見紛う美貌が涙で濡れる様は、視覚的にこちらを煽るものがあって。 吸い寄せられるように、その頬へ手を伸ばした。 「ひ、ろ」 戦慄く唇を辿って、ふと息を吐く。乾いた涙の跡が目に痛々しい。 (……何を、考えているのか。知らないが) ひとつ、瞬いて。半ば強引に身支度を整えさせる。 「ほら、帰るぞ」 頭を撫でればそのまま俯いてしまった上條。どこか妹の結衣に似ている仕草を見て、少し考えを変えた。 「…ウチ、寄ってくか?」 「、え」 ぱっと上げられた相貌に苦笑いして、念のために釘を指す。 「手は出さないけどな」 本当は真っ直ぐ家に送り届けてやろうと思ったが、何故か頑なに家を知られたくない彼のこと。自分で歩けるようになってからタクシーでも呼べば良い。 休憩するだけ、と宥めて細い腕を掴んだ。勢いをつけて背負ったけれど、この肢体は驚く程に軽い。 「…君は、いじわるだ」 すっかり暗くなった帰り道を急ぐ。背で揺られる上條がぽつりと漏らした言葉。 大方、自分の思い通りにならなかったことが悔しいのだろう。 「俺で上書きする気か?」 「………ううん」 やや間を置いた返事。明らかな嘘の匂いに嘆息しながら足を進める。 それきり黙り込んだ俺に、何を思ったのか付け加えられたのは。 「…違う。上書き、してほしかった」 ごめんなさいと続く謝罪に、知っていると返した声はほんの少し柔らかくて。安心したのか重くなる体と、暫くして聞こえる寝息。 家で待つ弟達にどう説明するか考えを巡らせながら、月を見上げた。

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