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23.
抱いて欲しい、と縋る上條。女人 と見紛う美貌が涙で濡れる様は、視覚的にこちらを煽るものがあって。
吸い寄せられるように、その頬へ手を伸ばした。
「ひ、ろ」
戦慄く唇を辿って、ふと息を吐く。乾いた涙の跡が目に痛々しい。
(……何を、考えているのか。知らないが)
ひとつ、瞬いて。半ば強引に身支度を整えさせる。
「ほら、帰るぞ」
頭を撫でればそのまま俯いてしまった上條。どこか妹の結衣に似ている仕草を見て、少し考えを変えた。
「…ウチ、寄ってくか?」
「、え」
ぱっと上げられた相貌に苦笑いして、念のために釘を指す。
「手は出さないけどな」
本当は真っ直ぐ家に送り届けてやろうと思ったが、何故か頑なに家を知られたくない彼のこと。自分で歩けるようになってからタクシーでも呼べば良い。
休憩するだけ、と宥めて細い腕を掴んだ。勢いをつけて背負ったけれど、この肢体は驚く程に軽い。
「…君は、いじわるだ」
すっかり暗くなった帰り道を急ぐ。背で揺られる上條がぽつりと漏らした言葉。
大方、自分の思い通りにならなかったことが悔しいのだろう。
「俺で上書きする気か?」
「………ううん」
やや間を置いた返事。明らかな嘘の匂いに嘆息しながら足を進める。
それきり黙り込んだ俺に、何を思ったのか付け加えられたのは。
「…違う。上書き、してほしかった」
ごめんなさいと続く謝罪に、知っていると返した声はほんの少し柔らかくて。安心したのか重くなる体と、暫くして聞こえる寝息。
家で待つ弟達にどう説明するか考えを巡らせながら、月を見上げた。
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