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第3話
恋愛小説ばかりを読んでいたのは小学校の先生が、αとΩはお互い惹かれあって恋に落ち番になるのだと話していたことをぼんやりと記憶していたから。
恋愛どころか好きな人すら作れずに小学校生活を終えてしまった自分であるが、将来自分も誰かとつがう役目を担ったからには「惹かれあって恋に落ちる」というのがどういうことなのか知っておかなければ、と使命感にも似た思いがあったのだ。
屋敷には沢山の本が所蔵されていたが、どれも小難しく自分には理解出来ない専門書ばかりが並んでいたので、執事に頼んで恋愛小説を取り寄せて貰った。
執事は今まで恋愛小説が欲しいなど頼まれたこともなかったのだろう。
あの軽く目を見開いて驚いていた顔は今思い出しても笑ってしまう。
毎日1冊取り寄せて貰い、毎日1冊読破する。
最初は本の中の架空の世界の出来事として捉えていたが、いつしかその中にででくる様々な境遇のΩを自分に置き換え読んでいた。
そうした経験の中で、番とは本能から求めあったもの同士のことであり、また、相手に惹かれずにはいられない存在であることを知った。
---生まれて今まで自分が本気で求めた相手はいただろうか?
自分を本気で求めてくれた人はいただろうか?
いや、自分はもしかしたら自分自身を認めてくれない両親に既に諦めを感じ、本気では求めていなかったのかもしれない。
そしてそんな自分を求める--それ以前に真剣に向き合ってくれた--人はいなかったかもしれない、ということに気が付いた。
---でもきっと、きっと番さえ見つかれば自分も本に描かれていたような幸せな感情を知ることが出きるはずだ。
そう思うようになった頃には既に責務は責務でなく、自分の生きる理由となっていた。それさえあれば家族の目が一度も自分に向いていなかった、という薄々心のどこかで気がついていた事実がほぼ確実なものとなったところでどうにかなってしまうような自分は、既に存在していなかったのである。
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