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第4話
そして今日は遂に僕の16歳の誕生日であり、番を迎える日である。
起きてからすぐこんなにも長い時間感傷に耽ってしまっていたのはやはりそれが原因だろう。
「失礼致します」
再び自分の世界へ没頭しそうになっていたが部屋の向こうから突如声が聞こえて来たものだから現実へと引き戻された。
声と同時に部屋へと入ってきたのは僕が幼い頃から羽柴家に仕え、現在は僕の専属執事である宮部 だ。
因みに僕は「宮部さん」と呼んでいる。
彼は僕より15ほど歳上で31歳のαだ。
まあ、屋敷に勤めているものは皆一様にαなので、逆に言えばこの屋敷にα以外は自分1人しかいない。
「お加減は如何ですか」
普段は黙したまま僕の検温をする宮部が、視線は僕の脇に挟んだ体温計に目を落としたまま尋ねてくる。
珍しいこともあるものだ。
「僕は平常通りですけど...。」
平常だと答えはしたがもしかしたら自分の番と漸く会える今日はいつもより気分が高ぶっているかもしれない。
「...そうですか。ご存知だとは思いますが後程真広 様の番の方がお見えになります。これからは番の方が真広様のお世話の方もさせて頂くことになりますので私は本日付けで真広様の執事を辞させて頂くことになっております。」
淡々とそう告げる宮部に驚きが隠せず、思わずベッドサイドに立っている宮部を見上げてしまった。
対して宮部は平素と変わらぬ態度で「屋敷にはおりますので何かありましたらお申し付け下さい」と言い残すと、僕が何か言葉を発する前に一礼して部屋を後にしてしまっていた。
一瞬今日会える番のことも忘れ呆然としてしまっていた。
この屋敷の中で毎日言葉を交わすのは宮部くらいのものなので、その宮部が自分から離れて行くことに言い知れない恐怖のようなものを感じる。
「屋敷にはいる」と言っていたのでこの自分の反応は大げさなものなのかもしれないが、部屋を出入りするときにかけられる「失礼致します」という静かに響く声や検温の際に肌に触れる意外にも温かい手の温もりを感じられなくなると思うと、何故だか胸が締め付けられる心地がするのだ。
「あーあぁ...変な僕」
声に出してそう呟いてみる。
そう呟くことで先程までの自分はおかしかったと自分自身に納得させるように。
さらに数度深呼吸して、頭を切り替えるともうじき来るであろう番を迎えるために着替えを始めたのだった。
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