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第5話

身支度を終え、いつものように部屋で一人朝食をとっていると何の音沙汰もなしに部屋の扉が開いた。 フォークを持つ手そのままに扉の方を振り替えると、なんと先程出た行ったばかりの宮部がそこに佇んでいた。 「宮部さん?どうしたんですか?」 今まで一度たりとも呼び掛けなしに入って来たことなどなかった宮部の行動には勿論驚いたが、それよりも何故宮部が再び戻って来たのか疑問でならない。 「俺は宮部ではない。お前の番だ。だが、お前が宮部と呼びたいのならそれでも構わない」 「...」 開いた口が塞がらないとはこの事をいうのだろうか。 全く状況が把握出来ずぽかんとしてしまう。 ---どうみても顔は宮部さんそのものだと思うのだけど...。 確かにいつもの燕尾服に黒い髪をオールバックで纏めた姿、そしてあまり感情を写し出さない顔、初めて聞いた人ならば少し冷淡に聞こえる口調が今はなりを潜めていることは認めよう。 何があったのかは知らないが目の前にいる宮部は、下はスーツなものの上はワイシャツでネクタイもしておらず、だらしなく第2鈕まで開けている。 前髪は下ろされ、更に敬語は消え失せていて、少し不機嫌なオーラまで纏っているのは気のせいではないだろう。 ---何が宮部さんを一時の間にこうまで変貌させてしまったんだろう? 二の句が告げないでいると宮部が近寄ってくる。 僕が手に持っていたフォークを奪いそのまま床に投げ捨てたかと思うと僕の腕を掴み、強引に僕を引きづって、勢いそのままにベッドへと転がした。 「...っ!宮部さん、本当にどうしたんですか!」 ベッドへと転がされた時に軽く腕を捻ってしまい顔を歪めると一瞬だけ宮部も苦味を潰したような顔になった気がした。 しかし直ぐにまた不機嫌そうな顔に戻ると、僕の問いには答えず自分もベッドに乗り上げる。 一瞬僕の顔を見た後、僕の両手を頭上で一纏めにして押さえつけ、前触れもなく口づけてきた。 「ぅんっ...んっ」 宮部の薄い唇が僕の唇に触れたかと思うと直ぐに口内に舌がぬるっと入り込んできてそのまま絡めとられる。 無意識に舌を引っ込めようとするとそれを逃がさないとばかりに宮部の舌が追ってきて、より深く絡めとられてしまう。 抵抗することも忘れ、「ああ、呆気なく僕のファーストキスが奪われてしまった」とどうでも良いことだけが頭の片隅を過るが、それすらも徐々に考えられなくなり、ただただ宮部の口づけに翻弄され続けた。

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