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第8話

彼の正体について暫く懐疑してきたが最終的に辿り着いた答えは、彼がアンドロイドであるか否かなど僕にはさして問題でなかった、ということだ。 僕はきっと彼がアンドロイドだったから今気持ちが底辺にある訳ではない。 自分の想像していた番の概念と、実際に目の前に現れた番との違いに戸惑い、そして憂いているのだ。 僕の思い描いていた番とは相手のことが憎かろうがなんだろうがあった瞬間に本能で惹かれあってしまう存在である。 でも僕は彼いわく多少彼の外見に惹かれている部分はあるにしても、「彼と離れたくない」という強い想いのようなものは沸き上がって来なかった。 また逆もしかりで、彼も部屋に入ってきた直後は何故かいきなり僕を押し倒して来たものの、それ以降は終始落ち着いており、表情をみていてもとても僕に惹かれているようには思えなかった。 僕にどうしたら好いて貰えるかと聞いてきたが、それは僕に求められたいという想いから発せられた言葉ではなく、αの子を為すための効率を考えて出てきた発言であろうし、今後もそうした機械的な関係が続いていくのだろう。 ---僕の番が何者でも良いから、僕のことを好いてくれなんて思わないから、本能に支配されているせいにして良いから...強く強く僕を求めて欲しかった。 そう考えると、あの時...いきなり彼が僕を押し倒して口づけてきた時、宮部がどうにかなってしまったと慌て何も考えられなかったが、今思えば彼の思惑は別として、あれこそ僕が誰かに求められるような行動をされた最初で最後の瞬間だったのかも知れない。 惜しいことをしたと思う。 番に会い、求め、求められることだけを生き甲斐に此処まできたがその願いがいとも簡単に潰えてしまった今、その経験のみが課せられた責務を終えるまでの活力になったというのに。 ---残りの人生の糧にするにはあまりにも唐突に起こり、そして翻弄されるままに終わり、喜びも幸せも感じることが出来なかったのだから。

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