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第9話
気が付かぬ間にかなり時間が経っていたようで部屋の中は既に真っ暗になっていた。
いつもならば既に夕食、入浴を終え、宮部が僕の就寝を確認しにくる時間である。
宮部が来なかったため時間の感覚が狂ってしまっていたらしい。
夕食も食べそびれていたため飲み物だけでも取りに行こうかと思ったが、脳を使い過ぎたせいかとてもだるかったのでソファーでそのまま横になる。
---こんなだらしないことをするのは初めてだ。宮部さんが見ていたら僕を叱っただろうか?
宮部の怒った姿などみたことが無いけれど、どんな顔をして怒るのか少しだけ気になってしまう。
僕が知っているのはいつも冷静沈着で何を考えているかほとんど分からない表情をした宮部だけ。
---いや、それだけじゃないはずだ。
表情からは何も伝わらないが、僕が何か宮部に話しかけた時には静かに耳を傾けてくれることを知っている。
僕が宮部をじっと見ていたら、用事などないことを分かっていながらも「何かご用でしょうか?」と視線に気がついて僕の方を振り向いてくれる。
宮部との10数年間、特別なことは何もなかったがそうした些細な出来事を思い出しているだけで、絶望した心に小さな火が灯る。
責務を言い渡されてからは番のことばかり考えていて、番に会えるならばもう他には何も望まないと思っていた。
それなのにどうしてだろうか。
番と会うことと引き換えに、1日数度顔を合わせて少し言葉を交わすだけの、何気ない宮部のいる日常が失われた。
その事がどうしてこんなにも悲しく感じるのだろうか。
---番が僕の理想と違ったから?
何処かでそれだけではないと叫んでいる自分がいることに気づかぬ振りをして、僕はギュッと目を瞑り、眠りへと身を投じたのだった。
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