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第13話

「頭の中の彼って、どういうことですか?」 彼の言葉の意味が理解出来ない。 アンドロイドにも二重人格的なものがあるのだろうか。 「言葉の通りだ。俺の脳には人工知能が備え付けられているだけでなく、同時に人間の記憶も埋め込まれた。その記憶が俺には理解出来ないはずの感情というものを呼び起こさせている」 どうやらアンドロイドはその記憶のことを彼と呼んでいるらしかった。 「彼の記憶は俺の記憶となったはずなのだが、俺が感情というものを完全に理解するためには俺自身の経験も必要となってくるのだろう。だから今の俺はまだ自分の中に生まれてくる感情に戸惑い、どう表現して良いのかわからない」 彼のいうことが本当ならば、彼が時折見せていた人間らしい表情や感情の揺れにも説明がつく。 そしてこの時、僕はアンドロイドのいう「彼」が誰のことを指しているか、つまり、アンドロイドの頭の中にある記憶が誰のものであるのかはっきりと分かってしまった。 ---アンドロイドは僕が倒れて朦朧としていた時、僕のことを何と呼んでいただろうか? そう、「真広様」と叫んでいたではないか。 意識が半分飛んでいたが、そう呼ばれて安心した自分がいた。 聞き間違いではないはずだ。 「...貴方の頭の中にも宮部さんがいるんですか?」 僕はそう聞かずにはいられなかった。 何故アンドロイドに人間の記憶を埋め込む必要があったのか、何故その記憶に宮部のものが選択されたのか。 次々と疑問ばかりが浮かんでくる。 「確かに俺の中にある記憶はお前のいう通り宮部のものだ。だが、宮部の記憶はもう俺の頭の中にしか存在しない。だがら初めにも言った通り、お前が俺を宮部と呼びたいならそうすると良い。もとより俺には名前と呼べるものがないからな」

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