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第14話

「俺の頭の中にしか存在しない」という部分が頭の中で繰り返し、繰り返し反響している。 「宮部さんが、貴方の頭の中にしかいない...?」 その言葉の意味を理解してしまったらもう後には戻れない気がするのに尋ねてしまう。 自分で聞いときながらその意味を頭の何処かで既に半分理解してしまっているのだろう。 身体はガタガタと震え、その震えが声にも伝わる。 「俺の頭の中にしかいない。宮部はきっともうこの世にはいないだろう」 彼はまだ真相を聞く心の準備が全く出来ていない僕に何の躊躇いもなく告げてきた。 「彼の記憶から推察するに、彼はどうやら1年ほど前から若年性アルツハイマーを患っていたようだ。若い分進行も速かったみたいだが、羽柴家の研究所で薬の投与を行い出来るだけ抑えていた。しかし、徐々に抜け落ちていく記憶に彼は恐怖していた。...特にお前との記憶が消えてしまうことに」 そんな折、羽柴家の研究員たちは彼に提案したそうだ。 あと数年でどのみち完全に消えてしまう記憶。 それならいっそう僕の番になるアンドロイドに自分の記憶を移し変えないか、と。 ---もう先を聞きたくない。 耳を塞ぎたいのに、それと同じくらいアンドロイドの言葉を一文字たりとも聞き逃したくないとも思ってしまう。 「羽柴家はその時既にお前の番、つまり俺を完成させていたが、やはりアンドロイドに感情を学習させることは出来なかった。それでもお前に好いて貰えるような番にするにはどうしても人間の感情を知らなくてはならない。実際の人間の記憶を移し変えてアンドロイドの人工知能に埋め込めば感情を学習出来るのではないかと早くから推測は立てていたのだろう。...しかし俺に移し変えた記憶はその人物の中から消え去る。それを了承して進んで記憶を提供してくれるものなど簡単には見つかなかった」 そこに調度宮部がアルツハイマーの診断書を持って執事の退任を申し出て来たのだ。 羽柴家の人間は自分たちの開発した薬ならば病状を遅延させられるからもう少しだけ真広の側に居てくれないかと打診したらしい。 そこからは、最初のアンドロイドの話に繋がるのだろう。 初めから宮部の記憶を提供して貰うつもりで引き留め、そして彼が記憶を差し出してくれるだろうタイミングを見計らって、アンドロイドへ記憶を移植する件を打診したのだ。

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