16 / 19

第15話

「彼は躊躇いもなく羽柴家からの提案を受け入れた。提案を受け入れた日からお前が16になる日、俺がお前の前に現れる直前まで時間をかけてその記憶の移動は行われた」 徐々に記憶を移し変えて行く、つまり宮部の中からはゆっくりと記憶が抜け落ちていくわけである。 ---それはアルツハイマーで思い出が消えて行くのと何か違いはあるのだろうか?忘れていく恐怖は何も拭い去れていないのではないだろうか? まるで自分の身に起こったことのように、宮部の恐怖のほどを思うと胸が締め付けられ痛み始める。 宮部に記憶の移行を提案した人間たちのことを考えると頭の血が沸騰したように熱くなる。 「昨日の朝...お前の誕生日の朝まで宮部は2つ、お前に関する記憶を残していた。記憶の移行に関して全て研究員たちに任せていた宮部だったが、どうしてもその記憶の移行だけは一番最後にして欲しいと懇願したため、そしてアルツハイマーによる忘却からも逃れたためだ。その記憶が何かお前には分かるか?」 落ち着いてに考えてみればもしかしたら分かるのかもしれない。 でも今の僕は怒りと苦しみに支配されていてとてもじゃないが冷静になどなれない。 アンドロイドは数秒、僕の血走っている目を見つめていたが、ゆっくりとその答えを口にする。 「お前の名前、そして.....お前への愛情だ」 聞いた瞬間目から一粒の涙が溢れ頬を、首を伝っていく。 それを皮切りに一粒、また一粒と溢れ出ては落下する。 「俺は昨日の朝初めて宮部と言葉を交わした。俺に最後の記憶を渡す直前、宮部は微笑みながらこう言った。『私の記憶を受け継いでくれてありがとう。真広様のことをどうか宜しくお願い致します』」 アンドロイドが宮部さんの顔で、宮部さんの声で、宮部さんの口調で...微笑んで宮部さんの言葉を僕に伝えてくる。 真っ直ぐと僕の目を見ながら。 「俺は思った。『真広様とは誰だ?それはそんなに大切なやつなのか?』と。その答えは直ぐに出た。彼から最後の記憶が流れてきた瞬間に」

ともだちにシェアしよう!