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第7話

ーーーー『こいつはすごい!』 カーディスは感嘆の声を上げた。 私達の眼下には街の明かりが煌々と燃えて、金に輝く湖の上を翔んでいるようだった。 上空はかなり寒いが、ソラスの姿をくらます魔法が防護壁のようになりだいぶ緩和されている。 そして、その周りに気流を作り吹き荒ぶ風を受け流していた。ソラスの魔法は器用だ。しかし燃費が悪くすぐ魔力切れを起こす。そうなると落下してしまいかねない。 そう長くは飛べないだろう。 『王様が高い城に住みたがる気持ちがわかる気がするよ』 カーディスはうっとりと景色を眺めながら言った。 『そんなに高い所が好きならロンドン塔にでも幽閉されておけ』 『あそこは生憎お偉方の御用達でね。おや、レグ、言葉が』 私はソラスに外套の中から一枚の紙を取り出すよう言った。背中でソラスが動く気配がした。 かさかさと紙が丸まる音がする。拡声器のような、円錐形の筒になったはずだ。紙の内側には陣が描かれている。 『上手くいったようだな』 私の声はその筒から響いていた。 ソラスとカーディスが出かけている間、時間を持て余し組んだ術式である。音声伝達に術式を使ったのは初めてだが、ノーム達の知恵を借りたおかげで中々の出来だ。 『やるじゃないか』 『お前の為ではない。ソラスと疎通を計れないのは不便なのでな』 ソラスは、目の調子はどうだと質問する。悪くないが、姿をくらます魔法をかけると周りが霞みがかって見えるのでよくわからない、と返すと、ソラスは苦笑しカーディスは大笑いしていた。 『ソラス、上昇する。しっかり捕まっているんだよ』 『うわ、待ってくれ!』 慌てるカーディスを無視して、翼で空気を押さえつけるように羽ばたき、上へ上へと昇っていく。 残念ながらカーディスは落とし損ねたようだ。  雲を抜けると、雲海と呼ぶにふさわしい景色が広がり、見上げればパヴェ・ダイヤを振りまいたような星空が待ち受けていた。 私達はしばし言葉を失い、煌びやかで壮大な景色の中を漂っていた。 『ソラス、もう魔法を解いても大丈夫だ』 先に我に返ったのは私だった。やがて景色が鮮明に見えるようになる。星の一粒一粒の輝きや、雲海の陰影まではっきりと。これなら大丈夫そうだ。 私はゆっくりと郊外の丘陵地帯へ下降していった。 ソラスもカーディスもヒラリと私から飛び降りる。 そつのない男だ。心の中で舌打ちする。 『何か意地悪な事を考えてやしないかい』 カーディスは片方の眉を上げる。 答えずに人間の姿に戻った。カーディスに"裏道"を通してもらい、市街に戻るつもりだったのだがーーーー 『どういうつもりだ、カーディス』 樹々の向こうを抜けると、玄関を通った覚えがないのに豪奢な部屋の中にいた。暖炉に炎が燃え、ソファとテーブルが並べられている。 『どこだ、ここは』 カーディスを睨んでやる。 しかしカーディスは 『僕の家にようこそ』 と満面の笑みで両手を広げた。

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