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第二章 college  第1話

今日は少し朝寝坊をしてしまった。 目を開ければソラスは傍におらず、部屋中が陽光に照らし出されていた。 まだ気怠さの残る身体を無理矢理起こして、水汲みに行っているであろうソラスの後を追って家の裏の森に入る。 木漏れ日の差す森の中、ソラスは木桶いっぱいに汲んだ水を両手で持って歩いてくるところだった。私を見つけると花開くように顔を綻ばせた。 駆け寄ろうとするも、水が重いらしくよたよたと歩いてくる。 『おはよう、悪かったね。私が持とう』 しばらく持つ持たないの押し問答をし、1人一つずつ木桶を持つことに落ち着いた。空いた手はソラスと繋ぐ。 『1人で水汲みに行ってはいけないよ、危ないからね』 浅い川だが流れが早く、地面から水面までは大人の背丈ほどの段差があるのだ。 ソラスは子どもではないのだから、と呆れている。 『違うよ、怪我でもしたら大変だろう』 やはり子ども扱いしている、と不機嫌そうに顔を顰める仕草は、それこそ子どものようであった。 川まで何往復かした後、庭の小さな菜園に水を撒いて、朝食を食べようと家に入ると 『やあ、お邪魔しているよ』 と金髪碧眼の美男がテーブルセットで茶を飲みながら寛いでいた。スタンドシャツにベストにスラックスと砕けた格好だが、仕立てや材質は良いものだ。テーブルにはティーポットや湯気を立てる人数分のブレックファストが並んでいる。 『帰れカーディス』 『いやだなあ、勝手に来ていいと言ったのは君じゃないか』 『家に上がっていいとは言っていない。 ソラス、手を着けてはいけないよ、まだ何を企んでいるかわからないからな』 匂いに惹かれるようにテーブルに近づくソラスのベストを引っ張った。 『やあ、今日も麗しいね。光の君。 僕の膝の上に来るかい?』 椅子を引いて両手を広げるカーディスにソラスは首を横に振る。カーディスの残念そうな顔に少しだけ気が晴れた。それから用件はなんだと聞けば、手紙を持ってきたと言う。 『僕の私書箱に入ってたんだ。君の大学からだったよ』 私は言葉を失った。辞表と手紙を送ったものの、こちらの居場所もカーディスのことも伝えていない。 『まずいな』   カーディスから手紙を受け取る。 『カーディス、覚悟しろよ。お前"見つかった"ぞ』 『ん?どういうことだい』 『架空生物学者なんて置いているような大学だ。一癖も二癖もあるに決まっているだろう』 封蝋に大学の紋章が押してある。本物で間違いないようだ。封筒を陽光に透かす。魔法陣の類は見当たらないが、手紙に触れる指先から魔力を微かに感じる。魔法を隠す目眩しか。以前の私ならなんの疑問もなく開けていただろう。 こちらに危害を加えようとする気配はないが、嫌な予感がする。 暖炉に放り込み火のついたマッチを落とした。 『わざわざ持ってきてあげたのに。ひどいなあ』 『うるさい。厄介ごとに巻き込まれたくなければ黙っておけ』 『        !!』 ソラスが珍しく声を荒げた。早く火を消せと急かす。いったいどうしたというのか。 次の瞬間、暖炉の中から勢いよく火が噴き出した。 私達の周りでは風が吹き荒れて炎と踊る。ソラスのおかげで大火傷を負わずに済んだ。 だが火はあっという間に天井を覆い尽くし、その中で細い光の筋が這い回り複雑な模様を描いていく。 これはーーー 『家から出ろ!空間転移の陣だ!』 時はすでに遅く、カーディスとソラスと家の中の風景が渦巻くように歪んだ。狭く暗い管の中を通るような閉塞感を数十秒体感したあと、急に四肢が解放され身体ごと床に投げ出された。 我が家の床と木の材質も色も違う。 だが、見覚えはある。 マホガニー製の調度品、吹き抜けの天井から吊り下がる魔具、執務室に繋がる階段など。 カーディスとソラスは立ち上がりながらキョロキョロと辺りを見回している。 よかった、無事であったか。 「ーーードレイグ・ファフニール!!!」 雷鳴が轟き、私の名を叫ぶ怒号と共に雷が落ちてきた。私達は慌てて散り散りになる。 しかし床には焦げ跡ひとつない。光と音を発生させただけのハッタリだ。異なる属性の術式を組み合わせた高度な技とも言える。 「生きておったのなら手紙の一つくらいよこさぬか。遂にトロルにでも喰われたかと思っておったぞ」 カツカツと靴の踵とステッキで階段を穿つ音が降りてくる。 ハスキーで凛とした声も、靴音も聞き覚えがある。 だいたい空間転移なんて大掛かりで複雑な魔術式を組める人物は限られている。 顔をあげれば、青い目をナイフのように光らせ波打つチェスナッツ色の髪を靡かせながら、この大学の最高責任者が階段を降りてくるところだった。 カーディスが目を輝かせる。 『レグ、あの美しい"御婦人"は?』 私は溜息が出た。 深緑色のタイトなシルエットのドレスに身を包んだ、この妙齢の(見た目は、だ)女性は 『マリオン・クリステ・メイス女史、 この大学の学長代理であり、私の魔術の師だ』

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