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第8話

起き上がれば茶渋やフライドエッグやソーセージの脂が私達の服に見事な模様を作っていた。 そして疲れただの食べ物が勿体ないだのめいめいにため息を吐いていた。そういえば朝から何も食べていない。 食事の用意を、いや掃除が先か。部屋の中は煤一つ付いていないが、割れた食器が散乱している。 あの炎も苔脅しか。 「おい帰るなカーディス」 「だって服がベタついて気持ち悪いんだ。 光の君も来るかい?」 ソラスは夕食を用意する、と言って箒を渡していた。カーディスは笑顔を保ったまま顔を引きつらせていたが、ソラスが不思議そうに首を傾げたまま見つめていると、しょうがないなあ、と手伝い始めた。 後日、カーディスを通して大学から手紙が届いた。本当に採用されたらしい。 カーディスは鍵を渡してきた。大学と"裏道"を繋げたそうだ。 「鍵を持っていないと出入りできないから無くさないようにね。それと対価は使う者から取れってさ」 カーディスはにやつきながら腕を組む。 「ちょっとした仕事を手伝ってもらうよ」 このちょっとした仕事と言うものがまた厄介だったのだが、またの機会にするとしよう。 紙の束でいっぱいになった鞄を抱え、鍵を玄関に取り付けた鍵穴に差し込んで回す。 扉を開ければ、私の研究室の中に出た。 廊下を歩いて講義室に向かう。 「おや、ファフニール先生いつお戻りに?」 廊下ですれ違った教員に声をかけられた。 「つい最近ですよ、ご心配をおかけしました」 微笑むと、教員は目をぱちくりさせていた。以前の私ならもっと愛想が無かっただろう。会釈してすれ違った。 講義室に入ると、一部の生徒がどよめいた。本当に生きていたのかだのクビになったかと思っただの囁き合う。 「静かに。講義を始める」 黒板に身体を向け、チョークで文字を書いていく。この軋む音や感触も久しぶりだ。 下の方に、何やら書いてある。 ーーーーおかえりなさい、と。 振り向けば、いつものように最前列に座る学長の笑顔があった。私もつられて口の端が上がる。 私の居場所が増えた。いや、ずっと側にあったのに気付かなかっただけだ。追い求めてきたかに思えたが、ずっと私のそばにいてくれた"隣人"達と同じように。 end

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