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番外編⑤ My happiness ※R18
夜中に学生達に出した課題の添削をしていれば、ソラスが近くに来て窓を指差した。
月がもう窓から見えなくなっている。ソラスとの約束の時間だ。
しかし
『すまない、これは仕事だからね』
ソラスは不満げに顔を顰めた。だが大人しく寝台に横になる。背を向けているが、端に身体を寄せて私を待っている。
急いだが終わる頃にはランプの油が大分目減りしていた。ソラスはすでに寝息を立てている。
やってしまった。
眠ってしまっても私が寝る隙間を空けているのがいじらしい。おやすみ、と口づけを落とし、私も眠りについた。
翌朝、いつもより早く家を出た。今日は遅くなると告げると、ソラスはほんの少し眉を下げた後、いってらっしゃいと微笑んだ。
微かな罪悪感に苛まれつつ、鍵を回し出勤した。
大学から帰ると、夕食の準備がしてあった。
遅くなるといつもそうだ。だから片付けは自分がやることにしているが、自分がやるとソラスが申し出た。どうしたのかと聞けば、仕事があればやっていいと微笑んだ。早く終わらせれば自分との時間が増えるだろうと。
健気さに胸が打たれた。そして笑みが溢れる。
互いに同じような事を考えていたようだ。
『今日は大丈夫だよ、私もソラスと過ごしたくて、急いで終わらせてきたんだ』
ソラスは嬉しそうに、2人でやればもっと早く終わるだろうと手伝ってくれた。
食器と鍋を洗い、鍋は水気を拭き取って油をひいておく。暖炉の火を絶やさぬよう薪を足した。
そうだ、ランプの油も足しておかねば。
ソラスは私の服の裾を引く。それは明日でいいだろうと。
だが一緒に本を読むには手元に明かりが欲しいところだ。ソラスはそっと私を抱きしめ、唇を重ねてきた。そして、明日でいいともう一度繰り返した。エメラルドの瞳が熱を灯す。暖炉の明かりを照り返し、誘蛾灯のごとく揺らめいている。
今度は私から口づけた。
何度も唇を重ねるうち、吐息は熱を帯びていく。舌をも重ねれば、口づけの合間に微かな甘い声が漏れ始めた。
ソラスの感覚は普段から鋭敏で、このような時もそれは変わらない。白くしなやかな首筋を舌で伝い耳を柔く食めば高く声が跳ねた。シャツのボタンを外し手を滑り込ませれば胸の先端は蕾のように硬くなり始めていた。指の腹で転がすように愛でていると、白い肌は薄紅色に染まってゆき、熱の篭った瞳は緑色を深め、隠されていた色香が花開いていく。
花を手折るようにソラスを横抱きにして抱え、寝台に寝かせると首に手が回された。一瞬足りとも離れたくないとでもいうように。
『どうして欲しいんだい』
耳元で囁けば、好きにしていいと返ってきた。
ソラスはいつもそうだ。私の意思を優先してくる。少しくらい我儘を言ってくれても構わないのだが。
露わになった白い胸元にキスの雨を降らせながらそう言えば、私の喜びが自分の喜びなのだと私の髪を梳く。
『私もそうだよ、あらゆることでソラスを喜ばせてやりたい』
淡く胸に咲く尖を唇で挟むと、ソラスの声は甘く掠れた。舌先で遊び、少しだけ歯を立て、口内で愛撫する。ソラスは悩ましげに眉を下げ、しかし楽園の先を見るような蕩然とした眼差しで遠くを見つめていた。時折もどかしそうに内腿をすり合わせ膝を曲げ伸ばししている。
腰骨から腿にかけて摩ると少し力が入った。
もう一度どうして欲しいか問いかける。ソラスは目元を赤くし、少し唇を噛む。私の手を取り、主張を始めたソラスの中心に導いた。
『それでいい。いい子だね』
ズボンを脱がせ下着を寛げてやると、手をかざしただけで湿り気を感じられた。
果てまで導くべく掌で包み込み上下に動かすと、バイオリンのように高く甘い声がスタッカートを刻む。私の後頭部で髪をすいていた手は硬く結ばれてシーツを握り込んでいた。
我慢しなくていいと言うが、戸惑いの混ざった緑色が私の顔を伺う。
『大丈夫だよ、おいで』
蜜を溢し続けるそれを咥えた。ソラスは夢から覚めたように頭を上げる。駄目だと言いながらも、私の舌や手が動く度に脚や肩が小さく跳ね、快楽に溺れ始め、やがて白い体はシーツに沈んでいった。その身体が一瞬硬く強張り、口内はソラスの味と匂いで満たされた。喉の奥に送り込み顔を上げると、ソラスは腕で顔を隠しながら、おかしくなりそうだと零した。
腕を退かすと、陶酔しきった緑の瞳には薄く水の膜が張っており、唇も頬骨も薄い紅に色づいていた。
『おかしくなどないよ、ソラスはいつも美しいよ』
ソラスはじっと私を見つめ、熱に浮かされた声色で私がどうしたいのか聞いてきた。
『私を受け入れてくれるかい』
頷いて、腕を首に絡めてくる。甘えてくる仕草が愛おしくてたまらない。
香油を塗った指をソラスの秘所に埋めていく。
指が馴染むにつれ、ソラスのため息が深くなり、時折白い肌に薄紅色が広がってはゆっくり引いていった。
しかし私自身が入り込むと、甘やかな喘ぎが漏れていた口は閉ざされ、肩が縮み、全身が強張ってきた。
やはり受け入れる側の負担が大きいのだと実感し、少し気の毒に思うが、ここで辞められるような鋼の精神は持ち合わせていない。せめて苦痛を和らげようと口づけや愛撫を繰り返すのみだ。
ゆっくりと動いていたが、ソラスを穿つ間隔が短くなってきた。目の前に星が散り絶頂の兆しが見え隠れする。すべてを手放し欲望の渦に飲まれそうになるが、私にしがみつくソラスの身体の重みがそれを阻んでいる。
『 』
酷くしていいという囁きが私を解き放った。
ただ獣のように華奢な身体を蹂躙する。寝台が悲鳴に似た音を出しながら軋む。ソラスは息を止めて下腹部に受ける衝撃や摩擦に耐えていた。次に口を開いた際には、息も絶え絶えに愛していると頬をすり寄せてきた。あえなくとどめを刺された私は、一番深い場所まで潜り込むと、腰を震わせ果ててしまった。
その後はソラスの身体の上に覆いかぶさりしばらく余韻から抜け出せずにいた。ソラスはまだ胸を上下させながら、細い腕で私の頭を包み込み撫でている。
心地よく抗い難い多幸感と倦怠感が眠気を運んでくる。情事の最中よりも、終わった後にこうして寄り添って触れ合う時間に幸福を感じる。
しかしこのままでいる訳にはいかない。
名残惜しさを引き摺りながら身体を起こして、ソラスの身体を内側から清めてやった。
自分でやると主張していたが、私はソラスを少しでも甘やかしてやりたいのだ。
横になればすぐ目蓋が重くなってきた。花の香りと腕の中の温もりをもう少し感じていたかったのだが、意識は夢の中に溶けていった。
あっという間に朝が来た。窓の隙間から朝日が漏れ、光の筋が窓枠を四角く縁取る。ソラスの白い睫毛の下から緑色が覗いているが、まだ眠たそうに瞬きしている。
『おはよう』
顔にかかる白い髪を持ち上げると、私と目が合い口元に笑みが浮かんだ。しかし、もう少しこうしていたいと胸元に顔を埋める。
『 ? 』
我儘を言ってもいいのだろうと遠慮がちに尋ねるソラスに胸が甘く疼いた。
残念ながら今日も講義があるのだが。
いや、確か午後からだった。
『いいよ、愛している、ソラス』
思わず口走った言葉に顔が熱くなり、ソラスに見られまいと頭を押し付けるように抱きしめた。
そんな私の思惑など露知らず、ソラスは微睡ながら幸せだと呟く。
今度は目頭が熱くなってくる。大変な思いをしてきた分、ソラスには幸せになって欲しかった。
私は愛を伝えることが苦手であるしその方法はとても稚拙なのだが、ソラスに幸福を与えられているのなら
ーーーきっと私は幸せ者に違いない。
end
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