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番外編⑥ Incense

大学から家に戻ると、ソラスが毛布に包まり暖炉の前で縮こまっていた。  具合でも悪いのかと訊ねかけたところで窓がガタガタと揺れた。 木の扉が閉まっており外の様子はわからないが、雨粒が弾幕のように窓を叩き風が吹き荒れる音が流れ込んでくる。まるで嵐だ。 顔に雫が滴り落ちてきて、雨漏りかと天井を見上げれば、梁にロープが張られシャツやベストやズボンがぶら下がっていた。 『大変だったね、ソラスは休んでおいで』 夕食の準備をしようとすると、自分も手伝うとソラスが立ち上がった。毛布の下から白い足が膝まで露わになりギョッとした。着替えはどうしたのかと聞けば、首を横に振る。洗濯物も雨にやられたらしい。魔法で乾かせないかと提案するも、詠唱した途端に風が起こり本棚や机や寝台を激しく揺らし始め止めざるを得なかった。 少し待っているように伝え、研究室に戻り私の着替えを取ってきた。 私とソラスの背丈はそれほど変わらないのだが、華奢なソラスの身体には合わずシャツの袖が余り少しだぼつく。ズボンのベルトも1番端の穴に通したのにまだ余る。ずり下がってくるので裾を折っていた。 私の匂いがする、とソラスは目を細めながら袖に鼻を近づける。 胸を内側からくすぐられるような心地がして口の端が上がった。 明日も雨ならまだ着ていられるのに、とソラスは言うが、明日は休みだ。一緒にいられる。 そう告げるとますます嬉しそうに緑の瞳は輝いた。 その日の夜は久しぶりに、何も考えずゆっくり過ごせた気がする。 次の日は快晴であった。 洗濯物をすべて洗うのに昼までかかった。しかし小さな庭いっぱいに白い布がはためくのを見れば達成感が湧き出す。 今度は私の着るものがなくなってしまい、乾くまで竜の姿でいる羽目になってしまったのだが、着替えからベッドのシーツまで汚してしまったので自業自得だ。仕方ない。 せめて早く乾くよう、猫のように丸まりながら怠惰に翼で風を送る。 と、そこへソラスがどうしたのか、と私の顔を覗きこんできた。そして懐から陣を取り出す。 そんなにも不穏な顔つきをしていたのだろうか。 『すまないね、折角の休日なのに何もできやしない』 ソラスは目をパチクリさせ、ふっと微笑みを浮かべる。 『 』 この姿の私も好きだと言い、一緒にいられて嬉しいと私の額に口づけを贈った。 ふわりとソラスの花のような香りがした。 陰鬱な気持ちが和らぐ。このまま腐っていても仕方ない。 どこかに出かけようかと鎌首をもたげる。ソラスは笑顔で頷き背中に乗った。 羽根を羽ばたかせれば、湿った草木や土の香りが舞い上がる。 青い空と緑の森の間を、私達はどこまでも進んでいった。 end

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