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第4話

 マサは、組長の自宅に呼び出されていた。  ここのところ、毎日。もう、日課になりつつある。  組長は、ワインをビールのようにゴクゴクと一気に飲みほすと吐き捨てるように言った。 「あいつは、今日は何をしていた?」 「頭は、会社に出勤されて一日中会議でした」 「池田との接触は?」 「特にありません」 「お前が俺のスパイだってことには、気付いていないだろうな?」 「今のところは」  組長は、市井に対して並々ならぬ対抗心を抱いていた。  外見に頭脳、そしてカリスマ性。  すべてが完璧な市井に対して、組長が勝っているものは何もない。  組長としての地位だけはあるのだから、張り合うのをやめ、うまく共存する道を探ればよい。  下っ端のマサでもわかる簡単なことが、この人にはわからないらしい。  それにしても、自分を自宅に呼び出すのをやめてほしいと思う。  この部屋にたどり着くまで、何人にも不審げに見られていた。  下っ端の、しかも若頭付きの自分が単身で組長の元に訪れるのは、どう考えても怪しすぎる。  それも、一度だけでなく毎日。  そろそろ、市井の耳にも入るだろう。  マサは、ため息をついた。  強くて綺麗で、考え付くことさえできないあざやかな方法でシノギをあげる市井に心酔していた。  裏切ることはしたくない。 「お前に仕事だ。明日の22時に、これをこの紙の場所に届けろ」  小さな段ボール箱を手渡される。  ずっしりと重たい。 「中身は何ですか?」 「お前は知らなくていい。俺の名前は出すなよ。ただ、黙ってそこに持っていけばいい」 「この住所って、山本組のしかも池田さんのシマですよね?」 「お前は、何も知らなくていい」  市井付きの自分が渡したら、市井からのものだと誤解されるのでは?  目の前の男の怒鳴り声に、マサは心に浮かんだ疑問を飲み込んだ。      □ ■ □  市井は、部屋の電気を消し、窓の外に目を凝らしていた。  都会の夜は明るい。  すごく探して、遠くの方で瞬く星が1個、見えるだけ。  子供の頃に、当たり前のように見えていた、降りそそぐような星は、どこに消えてしまったのだろうかと考える。  消えてしまったのではない。  ただ、自分に見えないだけ。  今、この瞬間にも、数え切れない多くの星は瞬いている。  あそこにいれば、変わらずに見えていた。  あそこにいれば、自分も変わらずにいられたのだろうか?  いや、そんなことは考えても無駄だ。  この組を救うために全てを捨てると、自分で決めた。  市井には、どうしようもなく弱気になるときがあった。  周りには、冷酷無残な人物と思わせているが、本当の市井は違う。  そんな日は、眠ることもできず、なかなか浮上できなかった。  そういえば、最近、そこまで落ちることがなくなった。  サワサワと、何かが市井の体をまさぐり始める。  ボールだった。  このエロボールのせいで、落ち込む暇がない。  市井は、目の前の物体の扱いについて考えあぐねていた。  どんなに遠くに捨てても、いつの間にか戻って来ている。  鍵のかかる場所に閉じ込めても、同じ。  当然のように戻って来ては、毎晩、市井の体を弄ぶ。  思いつきもしない淫らな方法で、市井の理性をトロトロに蕩けさせ啼かせるのだ。  ボールから蔓のような触手が2本、ニョキリと姿を現し、市井の尿道口から入り込んだ。  最奥を目指してズリズリと這い進む。 「あーっ、そんな奥までっ」  触手は、直径2、3ミリ。  シリコンのような弾力のある素材で、分泌された粘液で表面がヌルついている。  痛みは全くない。  普段、排出する場所を逆の方向に進む光悦とした違和感。  触手の所々に形成されたコブがゴリゴリと粘膜を擦りあげる動き。  それらが合わさって、とんでもない悦楽を生み出す。 「ああっ」  市井は思わず、声をあげた。  あまりもの気持ち良さに、市井は耐えることができず、とうとう奥で弾けた。  しかし、出口に向かって押し寄せる白濁液の流れを触手のコブが堰き止める。 「ああっ……出したいっ」  苦しい。  吐き出せずに行き場を失った欲望が、出口を求めて荒れ狂う。  市井のペニスは、これ以上はないほど腫れあがり、はち切れそうだ。 「お願い。出させて」  市井は、涙で顔を濡らしながらボールに哀願した。  限界は超えている。  これ以上は、無理だ。 「!?」  市井の哀願に応えるように、もう1本の触手が、ヌプリと後の窄まりに忍び込んだ。  前立腺のしこりを見つけると、容赦なくコブでゴリゴリと擦りあげた。 「っんっ……ムリっ! 許して」  考えなければならないことは、たくさんあるのに、快楽という霧の向こうにぼんやりと霞む。  こんなことは許されない。  血も涙もない、冷酷無残なはずの自分が、たかがボールに泣いて許しを乞うなんて。 「ああっ」  目の前を快楽が弾けた。  絶頂と同時に堰き止めていたものが無くなり、市井のペニスから白濁液が勢いよく吹き出した。  チカチカするような愉悦に、市井は意識を手放した。  自分をギュッと抱きしめる感触を感じながら。  目覚めると、体は清められ、パジャマを着せられていた。  横には、ボールがぴったりと寄り添っている。  認めたくはないが、このボールに救われている。  快楽に溺れているこの瞬間だけが、市井を全ての重荷から解き放ち、自由にしていた。  だが、ボールの正体は不明のまま。  一体、この物体は、ナニモノなのだろうか。  なぜ、自分にまとわりついているのだろう?  ボールが最初に現れたのは、3ヶ月前の雨の日だった。  その日、市井の仕事により、幼い子とその両親が死んだ。  逃げ道は残していた。  苦しくて、けわしい道だったけれども。  だが、その道を選ばずに、幼い子まで連れていった。  自分のせいではない。  本人の弱さのせいだ。  市井には、そう考えることは出来なかった。  また1つ、肩に重みが増える。  もう、かなりの重さになっている。  あとどのくらいの重みに耐えることができるのだろうか……  雨に濡れながら、歩いていた時だった。  ふと、植え垣のところに、水色のゴムボールに目が留まった。  子供が忘れていったのだろう。  自分も、子供の頃に同じようなものを持っていた。  幼馴染みと二人だけの秘密基地で、毎日、そのボールで遊んだ。  もう、二度と手に入らない幸福な日々。  懐かしさに、手に取った。  それがとんでもない間違いだった。  その晩、市井は犯され、ボールはそのまま住み着いてしまった。

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