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第7話

 市井は、マサと組長をその場に残し、1人、ビルを後にした。  もう、すっかり闇に包まれている。  降りそそぐような瞬く星は、今夜も見えない。 「これで全て、終わった」  ひとりでに言葉がこぼれる。  それに反応するかのように肩の力が抜けた。  組長としての自覚に目覚めた兄は、これからは組や組員のことを一番に考えてうまくやっていくに違いない。  お金を生む仕組みづくりは、この7年間の間に整えた。  法に反しないまっとうな方法だ。  自分がいなくても、問題なくやっていけるはず。  父親との約束は果たした。  これで、自分の役目は終わった。  市井は、ギュッとポケットのボールを握りしめた。 「お前も、一緒についてくるんだろ?」  破門され、もう、ここには居場所はない。  といっても、これで堅気に戻れたわけではない。  池田をはじめ、色々な所から声が掛けられている。  上手くはぐらかしてはいるが、全てを無かった事にして堅気に戻れるほど、この世界は甘くはないし都合よくは出来ていない。  池田は、欲しいと思ったものは必ず手に入れる男だ。  きっと、断ることができないような汚い手を使ってくるにちがいない。  だけど……  ユースケに会いに行ってもいいだろう。  ずっと会いたくて、会うことのできなかった幼馴染み。  ユースケとは、父親の所に別れたきり、一度だけしか会っていない。  力がなくて、会うことができなかった。  力を手に入れた後は、資格がなくて会うことができなかった。  声はかけない。  影から、そっと様子を窺うだけ。  ここまで頑張った。  自分へのご褒美だ。  ――ヤクザには絶対にならないって、あんなに誓ったのに……。約束を破るなんて最低だっ!  ユースケと最後に会ったときに投げつけられた言葉。  もう、二度と一緒には歩めないことはわかっている。  だが、顔を見るだけならば許されるはず。  まるで市井を励ますかのように、ポケットでボールが跳ねた。

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