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第4話

「こ、鴻……」  ぽろりと口から溢れる名前に、自分で驚いてしまう。 「え、まじで。和希、覚えててくれたのかよ」  そう言いながら俺の隣にしゃがみ込む彼は、レザージャケットにパーカーという、高校生みたいな恰好で、俺はただただ彼を見つめる他できなかった。 「久しぶりじゃん」  年月を感じさせない気さくな笑顔で言われて、はっとして掌から小石が転がると、俺は「あ」と、声を零してから、 「久しぶり」  と呟いた。  夢だろうか。これは、夢だろうか?  今すぐ頬や耳を引っ張りたくて堪らなくなる。一体何が起こっているのだろう、だって、十二年も前のタイムカプセルの事なんて。  忙しなく鳴る心臓の音で耳を塞ぎながら、俺は言葉を探した。けれど、戸惑いと驚きと、いろいろな感情が飛び交う胸の中で、言葉を掴むのは容易ではない。  思いもしなかった元恋人の登場に、思考がついて行かない。 「……ほ、ほんもの?」  やっと出た言葉に、鴻は一瞬ぽかんとしてから、吹き出すように笑い、 「ばあか、幽霊にでも見えるかよ」  そう言って俺の肩に肩をぶつけて来た。  どうやら現実らしい。 「な、なんでいるの?」 「お前と同じ理由だけど?」  そう言うと、彼は俺の隣できょろきょろして、これで良いかと、俺よりも一回り小さな石を手に取る。 「お前もよく覚えてたな。ここであってるっけ?」 「……多分ここであってると思う」  俺が忘れるなんて、あり得ない。  だって。  俺は彼の土を削る石を眺めながら、中学生から高校生までの記憶を走馬灯のように思い出した。  思いが通じ合って、幸せだった日々。楽しいばかりじゃなかったけれど、喧嘩してもその分だけ愛が深まっていくのだと、無条件に信じられた日々。  俺が忘れられるわけがない。 「忘れるわけないよ」  そう呟くと、彼の少し長めの茶色髪の隙間から、形の良い目を向けて来た。視線がぶつかると、俺は視線を落として土を削った。かりり、と音が、真冬の空気にひびを入れる。

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