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第5話
「そっか……今何してるの?」
「公務員」
「ばっちり安定で、お前らしいな」
「そっちは?」
「しがない営業でーす」
「似合ってる、鴻らしい」
それ褒めてるか? と言われ、一応と答えると、ならいいやと鴻が笑う。その声が懐かしくて、少しだけ胸の内側が温かくなった。
高校生の三年生の頃、大学受験に集中したいという彼の意思で、俺達は別れた。
正確には、一年間集中したいから、距離を置きたいと言われたのだけれど、まだ青くて単純で馬鹿な俺には、それは別れも当然のように聞こえてしまった。
幸せな日々が突然瓦解して、戸惑っている内に俺達は距離を置くことになった。何の抵抗もできないまま、いつの間にか離れてしまった手の喪失感に、俺はただただ呆然としていた。
その痛手に、受験が終わった後も、俺は彼の連絡を無視し続けて、やがて自然消滅という形に終わった。
あれから七年。
「七年、か?」
土を削りながら、不意に鴻が呟く。俺は眼を瞬かせてから、ああと頷いた。
大学生になってからケータイをスマホに変えて、俺は新規契約で電話番号もメールアドレスも変えてしまい、以来音信不通となった。
そうしなければ、いつまでも彼の影を追ってしまいそうで。
「お前大学生になったら、番号とかメアドとか変えただろ」
笑いながら鴻が言う。その声音には、言葉の割に棘はなくて、俺は少し戸惑ってから「ごめん」と呟くに留めた。
「いや、何となく気持ち分かるし良いけどさ」
俺はうん、と頷いて、手を動かした。空気の冷たさに、指先の感覚がなくなっていく。
「ちなみに俺は今でも変えてないから」
そう言うと、彼は付け足すように、
「まあ、面倒臭くてってのがあるんだけどな」
と呟いた。
俺はそっか、と零して、無言で土を掘る。がり、かりりと二人で手を動かす無言の時間。ほのかに感じる右隣の温かさに、俺は彼を失ってからの七年を思い出す。
ずっと一人だったわけじゃなかった。
数人と寄り添う事はあったし、寝たりもしたし、それなりの幸せを感じる瞬間を与えてもらってきていた。安心感も、愛おしさもあった。
それらは嘘じゃない、けれど、忘れられないものも、確かに胸の奥底にあったのだ。
俺は視線を彼の居ない左側へと流した。
触れ合ってもいないのに、昔から感じる彼の隣の心地良さは、懐かしさとぬくもりに溢れていて。
まるで俺の心の水が半分出て行って、彼が流れ込んでくるみたいにちょうどいい。
「あ、あった!」
彼が声を上げて、石で土を叩く。すると、今までとは違う子気味の良い音がカンカン、と響いた。俺と鴻は少し興奮気味にそれを掘り起こすと、出て来た青いクッキー缶に、これだ! と声を上げた。
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