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第6話

 社会人は時間通りの昼休みがないのだろう。と言うのは知っているけれど、 『めちゃくちゃえらいじゃん。石油王になれる』  そう送られてきたのは、あのメッセージを送ってから六時間が経過した夕方だった。 『俺昼抜きで今まで客と打ち合わせ連チャンだったの。褒めて』  一体社会人と言うのはどういう生き物なのだろうか……。帰りの電車に揺られながら、 『おーよしよしよしよし』  と、犬にやるような言葉を送ると、 『わんわん、きゅうううんきゅうん』  と返ってきた。  大人の威厳もプライドもあったもんじゃないな、この人。  呆れながらも口元が笑いそうになって、思わず俯いて表情を隠した。 『今日のギルド戦行けない。俺は現実という戦に駆り出された。もう体力も魔力も俺には残されていないと言うのに』 『元々魔力はないので大丈夫ですよ』 『そういう突っ込みは受け付けおりません』  そんなやり取りを数回繰り返していると、いつの間にか最寄り駅で、僕は慌てて電車を飛び降りた。 『話に夢中で、降りるの忘れそうになった』 『俺なんか仕事放棄してるぜ!』 『仕事しろよ』 『きゅうううんきゅうううん』  堪え切れずに笑ってしまうと、周りの視線が突き刺さってくる。人ごみの中にいても、やはり笑ってしまえば注目を浴びてしまうらしい。普段は気にもせず、目にも留めず、知らんふりなのに。  人ごみの中は無関心でいるようで、皆好奇心に満ちている気がする。 『カズと遊んだら楽しそうだな』  不意にメッセージが来て、足を止めてしまう。人の流れに逆らったせい、後ろから来たサラリーマンが僕の肩に打つかって、舌打ちをして改札を出て行った。僕は人の流れを避けるように、壁際へと移動すると、スマホの画面を凝視した。  ゆうじさんが、僕に会いたい?  大人の男に「遊ぶ」という単語は何処となく似合わないんだな、と思いながら、僕は何度もその短い文章を読み返した。 『僕なんか年下で、きっとつまらないよ』  そう文字を打って、消して、 『僕も会いたい』  と書いてみる。  文字となって目の前に現れた願いに、突然顔がじわじわと熱を持っていくのを感じた。 『僕も、会いたい』  頭の芯が煮えるような熱に、慌ててその文字を消すけれど、跳ね上がった心臓は、なかなか鳴り止んではくれない。

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