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第7話

 あまりにも的確な言葉だった。  僕の心に。 『カズはどう思う?』  僕は……。  言葉に迷っている促され、更に返答に困ってしまう。  何か早く返さなきゃ、変に思われてしまう。正しい答えを早く。焦って指を動かすけれど、会いたいという一言で自覚してしまった想いを隠すのに、有効な言葉が見当たらない。  服の中の身体が熱く、汗で湿り、手のひらが滑る。  どうしたら。なんて言えば。 『僕もそう思うけど』  嘘は吐いてない、ゆうじさんと遊んだら楽しそうだし、会いたい。けれど。 『会うのは怖いな』  僕は教室の隅から見渡した、自分のいないクラスを思い出していた。  僕も二か月前まではあの中にいたのに、もうあの教室のどこにも存在しない、透明人間になってしまった。  この駅の人ごみの中のように、蹴飛ばされたり、打つかったりしない限り、見留てもらえるような存在ではなくなった。  ゆうじさんにとって、そんな人間になりたくない。  急に心が堅く冷えていく気がした。 『まあ、確かに。ネット上の人間に会うのは怖いか』  僕はその言葉に慌てた。  そうじゃない。僕は、ゆうじさんが怖いのではない。そう訴えたかったけれど、何が怖いと言われて、本音を話す程の勇気はなかった。 『遊びたくないとか会いたくない訳じゃないから、誤解しないで欲しい』  うまい言葉が見つからなくて、そう伝える事で、精一杯だった。 『面と向かって話すのが今更ながらに恥ずかしいっていうか、ネットの人とこんな話になった事ないから、どういう風に受ければ良いのか分からないし』 『カズ落ち着け。まあ確かに俺も結構仕事で遅いからなあ。学生のお前呼び出すのって言ったら夜になるから気が引けるっちゃ引ける』  自分から断っておいて、いざなかった事になりそうになると、寂しくて堪らなくなるという身勝手な気持ちに、自分で自分を殴りたくなってくる。女々し過ぎるにも程があるだろう。  けれど、彼の前だとそういう気持ちすらも、許されるような気がしてしまう。 『じゃあさ』  ぴこん、とゆうじさんのアイコンから吹き出しが出てくる。 『俺、明後日の午後八時、ギルド戦を渋谷のカフェでやるから、気が向いたらおいで。飯食いに絶対抜けるからさ』  明後日?  急過ぎる予定に、更に困惑が増す。 『気負いするな。急だしついでのようなもんだし、用事あったら良いからさ』  二重の気遣いに、彼の優しさが滲んでいるようで、胸の奥が温かくなってくる。友人や兄にも感じた事のない、特別な温度。初めて優しさに温度があるのだと感じた気がした。 『じゃあ、俺は仕事戻る~』  そう言うと画面から彼の気配がふ、と消えてしまう。 『行ってらっしゃい、無理しないでね』  僕はそれだけ返すと鞄にスマホを突っ込んで、足早に改札を出た。  明後日、明後日。どうしよう。  繰り返し考えながら、僕はもう一度スマホを取り出すと、彼の送ってくれたメッセージを読み返す。  戸惑いより、喜びで全身が満ちていくのを感じた。

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