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第四章・5

 きゅ、といきなり鼻をつままれ、弦は我に返った。 「もう、弦先輩。聞いてますか?」 「え? あ、すまん」  ぷぅ、と頬を膨らませ、千尋はお茶の入った湯呑を弦に渡した。 「ぼんやりして……何考えてるんですか?」 「いや、なんでもない」  嘘だな、と千尋は解かっていた。  ぼんやりしながらも、弦の腕や肩は時折動いている。  きっと、柔道のことを考えているのだ。

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