86 / 239
第四章・10
よく解からないが、とにかく先輩の技を受けていればいいのだ。
自宅での練習なのに、なぜかこだわりをもって畳の和室で、しかもそのへりを開始線に見立てて真面目に一礼する弦。
ちょっぴりカワイイかも、とクスリと笑った瞬間、すぽーんと体が崩れてしまった。
「千尋! 小内刈りで一本とられてどうする! 真面目にやらんか!」
「急に始めないでください!」
礼をした時からすでに戦いは始まっているのだ、と鼻息の荒い弦。
その後もじゃんじゃん足技をかけてくる。
小内刈りをようやくかわせるようになってきたら、次にはカミソリのような内股が千尋を襲った。
「踏ん張れ、千尋! 高橋はここから寝技に持ち込んでいったぞ!」
僕は高橋さんじゃないんだし、寝技への持ち込み方なんか知らないし!
千尋の心の叫びも、弦には届かない。
内股で一本ではなく、技ありくらいまでしのげるようになった頃には、もうへとへとだった。
ともだちにシェアしよう!