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第四章・29

「一本! それまで!」  体育教師の張りのある声が格技場に響く。  その声に、弦は体からふぅと力を抜いた。襟を正し、開始線で礼をする。  負けた。また、負けた。  しかも、今度の相手は一度勝ったことのある一年生だ。  このところ連敗続きでスランプに陥っている弦に、どうしたぁ、と田中が声をかけてきた。 「体調でも崩したか」 「いえ、そういうわけでは」  う~ん、と田中は手で顎を撫でながら悔しそうだ。 「やっぱりお前もまだ初心者ってことか。寝技に持ち込まれると、不利だなぁ。」

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