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第五章・6
そんな弦の姿に、千尋は心を痛めた。
(弦先輩。夜、眠れなくて食欲も落ちちゃったんですね)
先輩を、元気づけてあげたい。
そう考えた千尋は、ひとつのアイデアを胸に台所の照明をつけた。
「ん? どうした」
「あ、ごめんなさい。明るいと、眠れませんか?」
いや、そんなことはないが、と弦はごそりと身じろいだ。
首だけよじってキッチンへ向ける。
千尋は、何やら料理を始めたようだった。
「今から料理か?」
「明日のお弁当の下ごしらえです。すぐに済みますから」
千尋はいつも朝早く起きては、弦の分まで弁当をこしらえる。
毎日ありがたくいただいてはいるが、下ごしらえまで始めるとは、明日は一体どんな弁当になるのやら。
楽しみに感じつつ、弦は千尋の立てる物音を聞きながら安らかな眠りに就いた。
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