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第六章・12

「毎日が苦痛でいかん」 「どうしてです? みんな応援練習頑張ってますよ」 「頑張り過ぎもほどほどに、ということだ」 「え~。紅組の応援より、ずっとずっと盛り上がってるのに?」  考えてもみろ、と弦はテーブルに湯呑を置いた。 「全校生徒の半分の眼が、一斉に俺の方を向いているんだ。それはそれは不気味だぞ」 「あぁ……」  そう言われると、と千尋は弦が気の毒になった。  一匹狼の弦先輩。  それが突然注目を浴びるような羽目に陥ったのだ。  かなりストレスになっているに違いない。 「じゃあ、先輩、一人だけ見てればどうです?」 「一人だけ?」 「はい。全員を見渡すんじゃなくって、誰か一人だけ見ておくんです。そしたら、先輩を見てる人も一人だって感じるんじゃないかな」 「なるほど」

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