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第六章・29

「どうした、千尋」 「ごめんなさい。ちょっと足が、やっぱりまだ痛くて」  は、と弦は思い出していた。  そういえば、千尋は足をくじいていたのだ。 「無理をさせてすまなかったな」 「ううん、もうほとんど大丈夫なんです」  本当に、逞しくなったものだ。  俺の応援がなくとも、もう一人で立派にやっていけるのだな、千尋。  そんな心地の弦の首に、千尋がかじりついてきた。 「千尋!?」 「先輩、ありがとう。ずっとずっと、僕だけを見て、応援してくれてたでしょう? ちゃんと、伝わってました。先輩の気持ち」 「千尋……」  千尋の背中に、腕をまわした。  二人座り込んだまま、しばらく抱き合っていた。  お互い、これまでいろいろな事があったが、こうしてまた眼と眼で通じ合えるようになったのだ。  こんなに嬉しい事はなかった。  

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