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第八章・4

 先生からの支持も得ることができた坂井の案は、あっという間に可決した。  執事~? 俺が~? などとぼやいている男子も、女子の憧れの職業(?)に大手を振ってコスプレできる事に秘かな期待を抱いている。 (まったく、どいつもこいつもくだらん!)  沸き立つクラスの中、弦だけは相変わらず腕組みをしたまま黙って眼を閉じている。  その額に、いきなり柔らかな手が触れてきた。 「ね、海江田クン! 海江田クンも執事になってよね! 髪は、こんなふうにオールバックにしてさぁ♪」    坂井の指が髪を梳き、弦の髪をざっくり後ろに束ねて見せた途端、教室中がどよめいた。  海江田が!  海江田くんが!  イケメン執事に見える!!  あの強面の弦さえも、執事になれるのだ。女子も男子も、俄然張り切り出した。 「やめんか!」  手を振り払っても、坂井はニヨニヨして悪びれるところがない。 (何か……、嫌な予感がする!)  きゃあきゃあとはしゃぐ周囲を他所に、弦だけは額に気味の悪い汗をかいていた。

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